酔吟会第161回例会

深川・芭蕉記念館で「春光」「菜飯」を兼題に開催

体調不良を押して参加の木葉さん最高6点で意気軒昂

酔吟会は3月11日(土)、令和5年第2回例会を江東区常盤の「芭蕉記念館」で開いた。同館で開催するのは今年初。この日の出席者は、昨年末から体調を崩していた徳永木葉さんを含めて14人。急に春めいてきた穏やかな日の午後、恒例により持ち寄った作品を短冊に書くことから和気あいあいと始まった。

例会の兼題は「春光」と「菜飯」、雑詠を含め投句は1人5句の計70句、選句6句で進めた結果、最高は木葉さんの「母の忌の菜飯にぎりのほろ苦き」の6点句だった。次席は4点で大澤水牛さんの「春光の隅田河畔にカレーパン」、金田青水さんの「春光や我れ単線の客となる」、玉田春陽子さんの「入彼岸こゑ聞くだけと電話来る」と「のどけしや窯入りを待つ鬼瓦」の二連発、そして廣田可升さんの「湾に満つ大漁旗や春の風」の5句がひしめいた。続く3点句には嵐田双歩さん、青水さん、谷川水馬さん、春陽子さんら手慣れの4句が並んだ。以下2点は13句、1点が20句。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「春光」

春光の隅田河畔にカレーパン      大澤 水牛

春光や我れ単線の客となる       金田 青水

立読みの列春光の神保町        嵐田 双歩

春光や寝釈迦の起る気配なく      玉田春陽子

「菜飯」

母の忌の菜飯にぎりのほろ苦き     徳永 木葉

百万遍おんなじ話菜飯碗        金田 青水

「当季雑詠」

入彼岸こゑ聞くだけと電話来る     玉田春陽子

のどけしや窯入りを待つ鬼瓦      玉田春陽子

湾に満つ大漁旗や春の風        廣田 可升

春昼や寝落ちてばさり文庫本      谷川 水馬

【参加者14人】嵐田双歩、今泉而雲、大澤水牛、金田靑水、久保道子、杉山三薬、須藤光迷、高井百子、谷川水馬、玉田春陽子、堤てる夫、徳永木葉、廣田可升、向井愉里

(まとめ 高井百子)

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会第203回例会

 

「春風」と「雀隠し」を詠む

水牛、水兎、春陽子が首位6点に並ぶ

番町喜楽会は令和5年の3月例会(通算第203回)を6日午後6時半から東京・九段下の千代田区生涯学習館で開催した。兼題は「春風」と「雀隠れ」で、雑詠を含め投句5句、選句6句(欠席者は5句)で句会を進めた結果、首位の6点に大澤水牛さんの「亀鳴くや卒寿の姉の長電話」、玉田春陽子さんの「街角に地図読む人や春の風」、星川水兎さんの「押せば出る箪笥なだめて春の風」の3句が並んだ。次席は5点で中村迷哲さんの「春風を懐に入れ龍馬像」のみだったが、三席の4点は5句にのぼり、3点は6句だった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「春風」

街角に地図読む人や春の風        玉田春陽子

押せば出る箪笥なだめて春の風      星川 水兎

春風を懐に入れ龍馬像          中村 迷哲

五十段あと五十段春の風         今泉 而云

しいたけの駒打つ山に春の風       谷川 水馬

春風や宝石つけて髙島屋         星川 水兎

「雀隠れ」

猫の墓雀隠れとなりにけり        廣田 可升

ロンパース雀隠れをよいこらしょ     大澤 水牛
「当季雑詠」

亀鳴くや卒寿の姉の長電話        大澤 水牛

手間かけてロールキャベツの日永かな   高井 百子

火の神を風の神追ふ野焼かな       玉田春陽子

猫の子にミルク持ち寄る校舎裏      中村 迷哲

ぽつねんとひいな飾りの前に座す     山口斗詩子

春疾風ドミノ倒しの駐輪場        廣田 可升

勝浦の大石段に雛揃ひ          向井 愉里

【句会出席者】(15人)嵐田双歩、池内的中、今泉而云、大澤水牛、金田青水、須藤光迷、高井百子、田中白山、玉田春陽子、堤てる夫、中村迷哲、廣田可升、星川水兎、前島幻水、向井愉里。【投句参加者】(4人)澤井二堂、谷川水馬、徳永木葉、山口斗詩子。

(報告 須藤光迷)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

23年英尾忌墓参八王子吟行

夕焼け小焼けの里を巡りアイリッシュパブへ

2月28日、日経俳句会と番町喜楽会の有志7人で春の恒例行事「村田英尾先生墓参吟行」を催行した。午前11時半にJR高尾駅に集合、八王子霊園に眠る英尾先生の墓参後、バスに揺られて八王子市恩方の「夕焼小焼ふれあいの里」に行った。ここは甲州街道の裏街道に当たり、「これが東京都?」と言うような山間で、童謡「夕焼け小焼けで日が暮れて、山のお寺の鐘が鳴る」の作詞家中村雨紅の生まれ育った場所だ。雨紅の生まれた神社や小学校、関所跡などを吟行、高尾山口のアイリッシュ・パブ「ケルティック・ムーン」で懇親会を開いた。

吟行俳句会は杉山三薬幹事の出した席題「唱歌・童謡・わらべうた」と、当日嘱目の投句3句をその日に集め、選句表を参加者にメール送信、「5句選句、句評を付けてまとめ役の水牛宛送信する」方式で行った。参加者の作品は以下の通り。

校舎より春の小川の童歌        嵐田 双歩

水温む宮尾神社の手水鉢

春眠し通学バスの童たち

英尾碑に合格祈る春陽射し       池村実千代

春うらら短調で弾くわらべ歌

レンギョウや古き学舎夢ありて

眠む眠むの児を抱きつつ春の風     今泉 而云

青空へ樹々の競へる春の山

股ぐらの下やちらほら春の草

早春の夕焼け小焼け急ぎ足       大澤 水牛

野蒜萌ゆ武田の姫の隠れ里

のどけしや高尾のパブの黒ビール

墓参行峰見上げれば杉の花       杉山 三薬

童謡の里ゆくバスを待つうらら

春の宴モーリンオハラを前菜に

お墓前一年ぶりのすみれかな      田中 白山

けやきの芽青空によく似合ひけり

ものの芽や席ゆずる子等地元の子

師の墓参〆はギネスや春の宵      玉田春陽子

旧仮名の童謡歌碑や春高尾

うららかや裏街道の番所跡

(まとめ 大澤水牛)

 

Posted in 句会報告, 未分類 | Leave a comment

府中市郷土の森観梅吟行

13人参加、早春の花を愛で、連句も挙行

日経俳句会と番町喜楽会合同で、2月11日(土)建国記念の日に府中市にある郷土の森公園を訪れる吟行を催行した。前日、関東全域にドカ雪が降り積もり開催が危ぶまれたが、当日はすっきりと晴れ上がった。ちょうど「梅まつり」が開かれていた園内では梅、福寿草、金縷梅などの早春の花が開き、残る雪の中の散策を楽しんだ。さらに、明治天皇が兎狩の際に休憩・宿泊所として使われた旧田中家住宅を借りて連句の会も開催大いに盛り上がった。吟行には総勢13人が参加。旧田中家をお休みどころにして、梅園や歴史を物語る移築建築物などを散策し、連句を14句目(全体36句の「歌仙」様式)まで巻いたところでお開きとなった。

吟行句会は兼題を「梅」、席題を「戦、諍い」、嘱目の三句とし、当日その場で句会を開く予定だったが、杉山三薬吟行幹事の采配で恒例のメール句会とすることに決定、12人から36句の投句があった。5句選の結果、最高6点には三薬さんの「大欅囲む手と手の暖かさ」が輝いた、また二席5点には嵐田双歩さんの「大店の遅日の部屋を昼の酒」が入った。

《参加者13人》嵐田双歩、今泉而云、岩田三代、大澤水牛、杉山三薬、鈴木雀九、鈴木玲子(夫人)、須藤光迷、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、廣田可升、向井愉里。

《吟行参加者代表句》

大店の遅日の部屋を昼の酒      嵐田 双歩

古民家へ一歩一歩や春の泥      今泉 而云

春の雪藁屋根つたひ滴りぬ      岩田 三代

白梅の香り立ちたる行在所      大澤 水牛

大欅囲む手と手の暖かさ       杉山 三薬

土黒く土温くして福寿草       鈴木 雀九

七段の雛は薬種屋蔵造り       須藤 光迷

梅見する心の隅にウクライナ     田中 白山

日の匂ふ昔戦さ場福寿草       谷川 水馬

せめぎあふ和洋たんぽぽ古戦場    玉田春陽子

苦吟する連句の庭に梅二輪      廣田 可升

残雪に青き武者像凛と立ち      向井 愉里

(まとめ 谷川水馬)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

日経俳句会第216回例会

反平句「添い寝」が最高10点、二席9点方円句「サプリ」

兼題の「獺祭」にみんな苦吟

日経俳句会は2月15日、内神田の日経広告研究所会議室で2月例会(通算216回)を開いた。この日は厳しい寒の戻りで、冷たい北風に震え上がった。体調を崩した会員もいて出席は13人とやや寂しかったが、合評会に入ると議論百出。熱気で暖房温度を下げるほどだった。

兼題は、この日に相応しく「余寒」と珍しい季語「獺祭」。特に獺祭は苦吟の跡のにじむ句が多かった。36人から106句が集まり、選句6句(欠席5句)の結果、一席は大沢反平さんの「介護の夜妻に添い寝の余寒かな」が10点。二席には植村方円さんの「気休めのサプリ並べて獺祭」が9点で続いた。三席は「おばちゃんもモンローになる春一番」中沢豆乳さんと「梅東風や茶筒の蓋のぽんと鳴る」星川水兔さんが7点で並んだ。以下6点3句、5点4句、4点6句、3点9句、2点27句、1点18句だった。兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「余寒」

介護の夜妻に添い寝の余寒かな            大沢 反平

ダウン着て少女ビラ撒く余寒かな           中村 迷哲

熱燗を飛切燗とする余寒               大澤 水牛

真鍮の手摺に宿る余寒かな              中嶋 阿猿

夜の地震掴む柱の余寒かな              星川 水兎

花柄の傘の手すくむ余寒かな             溝口戸無広

きーきーと鳥姦しき余寒かな             嵐田 双歩

らっしゃいの笑顔が溶かす余寒かな          金田 青水

吉報に余寒吹き飛ぶ受験生              篠田  朗

衣装箱再び荒るる余寒かな              髙石 昌魚

「獺祭」

気休めのサプリ並べて獺祭              植村 方円

膏薬を肩に背中に獺祭                嵐田 双歩

片付かぬ部屋にこもりて獺祭             岩田 三代

ほろ酔ひて書店漁るや獺祭              溝口戸無広

老いてなほ食べ盛りなり獺祭             加藤 明生

獺祭り口伝も絶えて村廃る              篠田  朗

獺祭の部屋から長女いざ国試             旙山 芳之

当季雑詠

おばちゃんもモンローになる春一番          中沢 豆乳

梅東風や茶筒の蓋のぽんと鳴る            星川 水兔

増え続く空き家どうする猫の恋            須藤 光迷

雪掻けば近所交流始まりぬ              高井 百子

ゆらゆらと光の波紋水温む              岩田 三代

終バスのまた一人減り冴返る             嵐田 双歩

春浅し巣穴の熊の二度寝かな             篠田  朗

朝のミサ何だか嬉し春の雪              池村実千代

百まではまだ十五年春うらら             横井 定利

《参加者》【出席13人】嵐田双歩、池村実千代、今泉而云、植村方円、大澤水牛、岡田鷹洋、篠田朗、杉山三薬、鈴木雀九、堤てる夫、中村迷哲、星川水兎、向井愉里。【投句参加23人】伊藤健史、岩田三代、大沢反平、大下明古、加藤明生、金田青水、工藤静舟、久保田操、澤井二堂、須藤光迷、高井百子、髙石昌魚、高橋ヲブラダ、谷川水馬、徳永木葉、中沢豆乳、中嶋阿猿、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、溝口戸無広、水口弥生、横井定利。 (報告 嵐田双歩)

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会第202回例会

「二月」と「末黒野」を詠む

水馬さん末黒野句で6点獲得

番町喜楽会は令和5年2月の例会(通算第202回)を2月4日、東京・九段下の千代田区生涯学習館で開催した。19人から投句があり、句会には17人が顔を揃えた。兼題は「二月」と「末黒野」。選句は6句(欠席者は5句)で句会を進めた結果、谷川水馬さんの「末黒野や妻のバリカン絶好調」が6点で一席を飾った。二席には大澤水牛さんの「三つ四つ五つと数へ今朝の梅」と山口斗詩子さんの「ひとり身も十年経ちぬ春袷」の5点句が続いた。また、三席には今泉而云さんの「三日ほど晴れて焼野の匂ひかな」、中村迷哲さんの「ちらほらと日記に白紙はや二月」、廣田可升さんの「圧力鍋やけに元気な二月かな」と「ヨガマット伸べて瞑想日脚伸ぶ」の4点句が入った。以下、3点句が10句、2点句が8句、1点句が29句という結果であった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「二月」

ちらほらと日記に白紙はや二月           中村 迷哲

圧力鍋やけに元気な二月かな            廣田 可升

領収書俄かに探す二月かな             嵐田 双歩

何つくらむ二月畑の無限大             大澤 水牛

生徒らに岐路現るる二月かな            中村 迷哲

目標を下方修正する二月              向井 愉里

「末黒野」

末黒野や妻のバリカン絶好調            谷川 水馬

三日ほど晴れて焼野の匂ひかな           今泉 而云

末黒野や友にあげたし時薬             高井 百子

陽を浴びる末黒野千里牛を待つ           中村 迷哲

「雑詠」

三つ四つ五つと数へ今朝の梅            大澤 水牛

ひとり身も十年経ちぬ春袷             山口斗詩子

ヨガマット伸べて瞑想日脚伸ぶ           廣田 可升

春立つや納戸に眠る旅鞄              嵐田 双歩

腰よじり放る投網や浜うらら            金田 青水

吊るされてコートの肘に曲り癖           玉田春陽子

あの山の彼方に故郷雪催い             前島 幻水

≪参加者≫【出席17人】嵐田双歩、池内的中、今泉而云、大澤水牛、金田青水、須藤光迷、高井百子、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、堤てる夫、徳永木葉、中村迷哲、廣田可升、星川水兎、前島幻水、向井愉里。【投句参加2人】澤井二堂、山口斗詩子。  (報告・谷川水馬)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会年間優秀作品三句を発表

堤てる夫、星川水兎、谷川水馬三氏が受賞

番町喜楽会は令和4年の全作品1274句から優秀作品3句を選定、2月4日に開催された第202回例会に先立って授賞式を行い、受賞者3名に賞品を贈った。この日は句会出席者が17名と最近にない盛況で、受賞者に対し参加者全員から、惜しみない拍手が送られた。優秀作品賞は令和元年に創設されたもので、今回で4回目となるが、星川水兎さんは最初の複数回受賞者となった。

《令和4年度番町喜楽会最優秀作品》

秋涼のどっと入り込む朝の窓    堤 てる夫

母の日にまるまる母を洗ひたり   星川 水兎

草の芽やちび怪獣に歯が生えた   谷川 水馬

≪選考経過≫

令和4年12月例会終了後、番町喜楽会の一年間の作品集を作成し、この中から今泉而云・大澤水牛両氏に年間代表作品137句を選んでいただきました。さらにこの中から、規定により前年受賞者の句を除いて、3句(3名)を優秀作品賞句として選定していただきました。また、受賞句に準ずる句として、両氏それぞれ次点句3句を選んでいただきました。以下に受賞句と選評、受賞者の言葉、次点句及び選評を掲載いたします。

(報告;番町喜楽会会長廣田可升)

《優秀作品賞の選評と受章者の言葉》

秋涼のどっと入り込む朝の窓    堤 てる夫

【選評】 一読、この場所は東京ではない、と気づき、学生時代、蓼科にあった大学関係の施設での合宿を思い出した。起床時間が来ると、グループのリーダーが各部屋の窓を、次々に開けていくのだ。風がそれこそ「どっと」窓から吹き込み、布団にもぐり込んでいた者どもを叩き起こす。句を眺め、思い出に浸っているうちに、「作者はあの人かな」と気づく。やがてその通りであることが判明した。(今泉而云)

【選評】 「秋が来たぞ」という思いを、これほど勢い良く、印象深く詠んだ句はありません。作者は私と違って早起きなんでしょう。朝早く目覚めるとすぐに雨戸を開け、窓を開ける。途端に明らかに昨日までとは違う空気を感じたというのです。「どっと」という擬音語(副詞)を存分に働かせています。実に爽やかで気持の良い句です。(大澤水牛)

≪受賞の言葉:堤てる夫≫

まさに驚天動地の出来事であります。どれくらいびっくりしたかと言うと、受賞の言葉を思いつかないくらいびっくりしたということです。有難うございました。

母の日にまるまる母を洗ひたり   星川 水兎

【選評】 母の日に母をまるまる洗うとは・・・、何と素晴らしい俳句作品だろうか。私が購読している日経や東京新聞の俳句欄の選者などが「この句をどう評価するか」と考えた。日に何百句、日によっては千句に余るという投句の最上位に選ばなければ、「選者は失格だ」と私は思った。「母をまるまる」という短い言葉の中に満ちる母への思いとその状況。絶賛せずにいられない。(今泉而云)

【選評】 老いた母親をいとおしむ様子がまざまざと描かれて、思わず涙が出て来てしまいました。悲しいからではない、感動からです。この句は「まるまる母を洗ひたり」と、まるで幼児や、あるいは愛犬を入浴させている感じで、むしろ無造作な詠みっぷりに可笑しみを覚え、やがてしみじみとして来るのです。而云さんも言ってましたが、この句は番喜会令和四年の最高傑作ではないかなと思いました。(大澤水牛)

≪受賞の言葉:星川水兎≫

この句で賞をいただくのは、なによりも長生きしてくれた母に感謝しないといけないなと思っています。有難うございました。

 

草の芽やちび怪獣に歯が生えた   谷川 水馬

【選評】 我が家の“ちび怪獣たち”が中年になったいま、実に懐かしく、「ウチの子もそうだった」と思い返さざるを得ない。乳児の歯はまず、下の歯茎が固くなり始め、間もなく白い歯が伸び出して行く。ウチの怪獣たちも活発な方で、日毎の変化の一つ一つが親や祖父母の楽しみになっていた。草の芽との取り合わせは、誰もが素直に受け取ることが出来るだろう。(今泉而云)

【選評】 明らかに「孫俳句」だが、孫とは一言も言っていない。そこが成功の所以でもありましょう。孫俳句にありがちなベタベタな感じが全く無い、読んでいて気分のいい句です。作者にとっては何ものにも代え難い宝物。それを「ちび怪獣」と呼んでいる。ちょうど歯が生え初める頃は活発になり、手当たりしだいに物を掴んではかじったり投げたり・・、オジイチャンは扱いかねることもしばしば。まさに勢い良い草の芽そのまま。取り合わせた季語がとても良かった。(大澤水牛)

≪受賞の言葉:谷川水馬≫

思ったことをそのまま詠んだら句になったというようなことで、次点の方の句を拝見しますと、ほんとうにこの句でいいのかという気がします。とても面映ゆい気持ちですが、有難くいただきます。

《次点三句》

今泉而云選

全山の音閉じ込めて滝凍る     中村 迷哲

【選評】凍て滝が「全山の音をとじ込める」という表現に「全くその通り」と頷いた。長野県や山梨県で、凍て滝を三つほど眺めた記憶があるが、滝の大小に関わらず、その周辺は森閑を極めていた。句をしばらく眺めて気が付けば、我が身も凍て滝に閉じ込められた心地になっていたのであった。

笹舟の疎水に早し夏来たる     廣田 可升

【選評】琵琶湖疎水を流れて行く笹船の様子を、作者から聞いたことがある。石材で築かれた南禅寺の疎水を行く笹舟を思い描き、夏来たる頃の南禅寺周辺の興趣を思わずに居られない。笹船を流すオジサンの様子や表情なども、あたかも我が目で見たように頭の中に浮かんできた。

夜店の灯紅く寂しく灯りけり    塩田 命水

【選評】夜店の灯が「紅く寂しく」とは。状況をしばらく思い描いた末に、ああそうか、と気づいた。コロナ禍の中、とりあえず夏祭りの夜店が開かれたが、「紅く寂しく」は神社へのお参りの人が少なく、夜店のオジサンの表情は冴えないのだ。

大澤水牛選

田水入る一番乗りはあめんぼう   高井 百子

【選評】あめんぼうという奴は水の匂いを嗅ぎつけるのか、水が溜まると真っ先に現れます。子供の頃それが不思議でたまらず、どこから湧いてくるのだろうかと水たまりを見張って居たものです。その頃はアメンボウには羽根があって飛んで来るとは知らなかったのです。この句も田植えで水が引き入れられた田んぼに「あら、もうアメンボが」とびっくりしている様子を詠み止めています。「代掻きの後澄む水に雲の影 悌二郎」という田植え用意の整った静かな一瞬を捉えた佳句がありますが、掲句は雲の影ではなくアメンボが飛んで来たと動きのある景色で、一層面白くしています。

川底の澄みて立夏の神田川     向井 愉里

【選評】本格派の俳句と言ったらいいでしょうか。すっと詠んでいながら風格があります。五月五日の都電荒川線吟行でまず最初に訪れた関口芭蕉庵の道すがらのぞいた神田川の様子です。私もしげしげ見つめたのですが、こんな名句は生まれませんでした。この句は「別にどうと言うことも無いんだが、いい句だなあと思ってしまう」といった句です。立夏の清々しい感じがします。こういう句を詠もうと心がけなさいという教科書かも知れません。

さあ九月怠惰蹴散らし婆の立つ   山口斗詩子

【選評】年寄りの住まいは知らず知らず汚くなっていきます。私ども老夫婦の家がまさにそれです。ちらかすつもりは無いし、昔ほど活発に家事労働をするわけではないのだから、さほど汚れないはずなのに、ふと気がつくと部屋のあちこちに空き箱やら、衣類・洗濯物の類が重なっていたりします。何の気なしに置いたものがいつの間にか溜まっていくのでしょう。それを作者は一念発起、「さあ九月だ」と立ち上がったのです。残暑の八月を越えて、タイミングとしてはちょうど良い時と言えましょう。なんと言っても、この意気軒昂たるところに打たれました。

 

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

日経俳句会第215回例会

水兎句「糸三つ葉」が最高7点、二席に水牛・双歩・木葉句

初句会に38人から112句の投句

日経俳句会は令和5年の初句会(通算215回)を1月18日(水)に鎌倉橋の日経広告研究所会議室で開いた。大寒間近で風邪を引いた人もいて出席は14人だったが、高点句が相次ぎ、寒さを忘れる句会となった。兼題は「雑煮」と「左義長」。38人から112句の投句があり、6句選(欠席は5句)の結果、星川水兎さんの「糸三つ葉ゆるりと結ぶ雑煮椀」が最高7点を得た。二席6点には大澤水牛さんの「日は既に青空にあり雑煮膳」と嵐田双歩さん「左義長や火の粉に混じる一等星」、徳永木葉さん「初みくじ裏を返せば英字版」の3句が並んだ。三席5点には植村方円さんの「この顔を五十年見て雑煮食ふ」をはじめ9句が入る盛況だった。以下、4点6句、3点11句と続き、高点句が30句にのぼった。そのほかは2点18句、1点30句だった。兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「雑煮」

糸三つ葉ゆるりと結ぶ雑煮椀             星川 水兎

日は既に青空にあり雑煮膳              大澤 水牛

この顔を五十年見て雑煮食ふ             植村 方円

観戦の合間につくる雑煮かな             中嶋 阿猿

一口の小さき雑煮に老母(はは)の笑み         岩田 三代

焼餅がぷつと息吐く雑煮椀              水口 弥生

今年また雑煮の朝も妻癒えず             大沢 反平

焼き鯊は父のこだわり雑煮出汁            中村 迷哲

雑煮喰う数競い合う子沢山              横井 定利

「左義長」

左義長や火の粉に混じる一等星            嵐田 双歩

浜風にちぎれ飛ぶ火やどんど焼            大下 明古

左義長の火の粉に人の輪の崩れ            須藤 光迷

縄文の遺伝子目覚むどんど焼             中村 迷哲

左義長の残り火で焼く蜜柑かな            中嶋 阿猿

竹の香の振舞い酒やどんどの火            廣上 正市

どんど焼き見つめる子らの瞳燃ゆ           久保田 操

どんど焼き縁起達磨も火達磨に            杉山 三薬

左義長やコロナ払いの願い込め            堤 てる夫

左義長やどんどと燃やせ過ぎし日を          藤野十三妹

 

「当季雑詠」

初みくじ裏を返せば英字版              徳永 木葉

転ぶなよ分ってるわよ今朝の霜            岡田 鷹洋

警策の硬き響きや寒の寺               中村 迷哲

「酌みたし」のくせ字ゆかしき賀状かな        廣上 正市

蝋梅や肌のぬくみの帯を解く             星川 水兎

野を走る一輛なれど初電車              加藤 明生

転寝(うたたね)や夕刊の来ぬ三が日          須藤 光迷

不機嫌が障子ぴしりと閉めにけり           嵐田 双歩

冬晴れやこの大窓のこの青さ             大沢 反平

寒風よここまでおいで大江戸線            杉山 三薬

七日粥食ひて治まる妻の咳              谷川 水馬

《参加者》【出席14人】嵐田双歩、今泉而云、岩田三代、植村方円、大澤水牛、岡田鷹洋、澤井二堂、篠田朗、鈴木雀九、堤てる夫、徳永木葉、中村迷哲、星川水兎、向井愉里。【投句参加24人】池村実千代、伊藤健史、大沢反平、大下明古、荻野雅史、加藤明生、金田青水、工藤静舟、久保田操、杉山三薬、須藤光迷、高井百子、髙石昌魚、高橋ヲブラダ、谷川水馬、中沢豆乳、中嶋阿猿、野田冷峰、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、溝口戸無広、水口弥生、横井定利。

(報告 中村迷哲)

 

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

酔吟会第160回例会

令和5年新春初句会を江東区森下文化センターで

兼題「初詣」「福寿草」、最高6点は春陽子と可升

酔吟会は1月14日(土)、令和5年の初句会を江東区森下の「森下文化センター」で行った。1週間前に「新春七福神吟行」があったばかりのせいか、出席者は12人と少なかったが、持ち寄った作品を短冊に書くことから始まる伝統的俳句会は和気あいあいとにぎやかに運んだ。終了後は森下の名物焼鳥屋「鳥長」で新年会が繰り広げられ9名が参加。今年の酔吟会が盛会になるようにと杯を挙げた。

例会の兼題は「初詣」と「福寿草」、投句は雑詠を含め5句の計60句。選句6句で進めた結果、最高点は6点で玉田春陽子さんの「シャッターを肩で押し上げ初仕事」と廣田可升さんの「福寿草戦争知らず老いにけり」が並んだ。次点は4点句が4人。昨年度日経俳句会「英尾賞」に輝いた春陽子さんが実力を発揮し「行く先は極楽と決め日向ぼこ」で4点句も獲得。また可升さんも「福寿草置けば日のさす出窓かな」で食い込んだ。他の4点句は谷川水馬さんの「松過ぎのたこ焼き奉行立通し」と須藤光迷さんの「海に入り水母となるや雪女」であった。以下3点句4句、2点句8句。1点句16句であった兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「初詣」

かしわ手に切れ味のあり初詣        今泉 而云

O脚も生きた証ぞ初詣           岡田 鷹洋

「福寿草」

福寿草戦争知らず老いにけり        廣田 可升

福寿草置けば日のさす出窓かな       廣田 可升

父母の干支九巡り目福寿草           谷川 水馬

淡雪を丸く溶かして福寿草         徳永 木葉

「当期雑詠」

シャッターを肩で押し上げ初仕事      玉田春陽子

海に入り水母となるや雪女         須藤 光迷

松過ぎのたこ焼き奉行立通し        谷川 水馬

行く先は極楽と決め日向ぼこ        玉田春陽子

【参加者12人】嵐田双歩、今泉而云、大澤水牛、岡田鷹洋、金田青水、須藤光迷、高井百子、谷川水馬、玉田春陽子、徳永木葉、廣田可升、向井愉里。

(まとめ 高井百子)

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

新春恒例七福神吟行

令和5年は新宿繁華街を20人で巡る

日経俳句会と番町喜楽会は合同で1月7日(土)に新宿区内の七社寺を巡る「新宿山ノ手七福神」吟行を催した。快晴、ポカポカ陽気に恵まれた新春恒例の吟行には20人が参加。飲食店街やホテル街を通り抜ける7キロ弱の行程を、一部地下鉄も利用しながら全員がのんびりと巡り終えた。夕暮れとともに神楽坂の料理屋「椿々」にうち揃い、和洋混合の料理を堪能しながら竹酒に酔い、吟行を打ち上げた。吟行後に恒例のメール句会を実施、19人から57句の投句があった。5句選の結果、最高7点には嵐田双歩さんの「銀舎利を黄金に染めて寒卵」と谷川水馬さんの「福詣まづ奪衣婆に睨まれて」並んだ。二席6点には廣田可升さんの「ほろ酔ひを照らす満月松の内」が入り、三席5点は杉山三薬さんの「七並べ七日七草七福神」だった。参加者全員の代表句は以下の通り(三席までの作者は別の句を掲載)

地下鉄の地下道長き七日かな     嵐田 双歩

シャンパンの乾杯となる福詣     今泉 而云

猿の顔欠けし塔あり冬の暮      岩田 三代

飲み屋街縫って巡るや七福神     植村 方円

粥腹のたぷたぷ鳴るや福詣      大澤 水牛

初吟行鳩に米撒く好々爺       岡田 鷹洋

初席やぽつり末廣ビルのかげ     金田 靑水

善き國に辿り着きたり七福神     杉山 三薬

徒歩メトロ七福めぐりハイブリッド  鈴木 雀九

七福神今年も閻魔に怒られて     澤井 二堂

寺社七つ悪所をかすめ初吟行     須藤 光迷

抜弁天水清くして鯉五匹       田中 白山

布袋みてチャック確かめ冬ズボン   谷川 水馬

宴席に傘寿迎へし布袋さま      徳永 木葉

寒の入ホテルに消えた今弁天     中沢 豆乳

肉太の昇太の名札初高座       中村 迷哲

風俗街縫ふて七福詣かな       廣田 可升

外ツ国の人も参詣福の神       前島 幻水

椿々の長屋の奥で初笑ひ       向井 愉里

《参加者》嵐田双歩、今泉而云、岩田三代、植村方円、大澤水牛、岡田鷹洋、金田青水、杉山三薬、鈴木雀九、鈴木玲子(夫人)、澤井二堂、須藤光迷、田中白山、谷川水馬、徳永木葉、中沢豆乳、中村迷哲、廣田可升、前島幻水、向井愉里

(まとめ 中村迷哲)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment