逆回り奥の細道吟行が完結

日経俳句会の通年企画「奥の細道逆回り吟行」は1月25日、草加松原、千住、深川を歩き、芭蕉が六百里の長旅に出で立った採荼庵に辿り着き大団円となった。清澄庭園を散策し、旅の余韻を噛みしめた後、ほど近い料理屋「深はま」で23人が集まる打ち上げ大懇親会を開催した。

平成21年4月、「奥の細道」終着点の大垣市を出発点とし、俳聖の眠る義仲寺から洛西に足を伸ばしたのが第1回。以来、一泊二日の旅を重ねること計9回、生地・伊賀上野などを巡った「番外編」も含め、5年がかりのビッグプロジェクトだった。参加者は延べ168人。

最終回の逆回り吟行に参加したのは、大澤水牛幹事長以下、井上庄一郎、高石昌魚、今泉恂之介、嵐田啓明、大平睦子、岡田臣弘、久保田操、杉山智宥、澤井二堂、高瀬大虫、田中頼子、谷川水馬、玉田春陽子、徳永正裕、野田冷峰、廣上正市、星川佳子、村田佳代、山口斗詩子、堤てる夫(幹事)の21人。

東武伊勢崎線松原団地駅に集合、昨年末に「おくのほそ道の風景地」として名勝とするよう文化審議会答申があったばかりの綾瀬川沿いの松並木遊歩道を散策した。芭蕉文学碑のある北の端から南の札場河岸(ふだばかし)公園まで1㌔半、手入れの行きとどいた松並木と、石畳の通路を挟むように掃き清められた土の路が続く。一般交通路を跨ぐ太鼓橋が二つ、「百代橋」(工事中だった)に「矢立橋」と奥の細道にちなんだ銘版。綾瀬川改修記念の札場河岸公園では、名残を惜しむかのように江戸方向を振り返る「見返りの芭蕉像」が印象的だ。

明治27年、正岡子規と高浜虚子が観梅に草加を訪れたそうで、二基の句碑。子規の句碑には咲き始めの紅梅が枝を伸ばしていた。

梅を見て野を見て行きぬ草加まで  子規

巡礼や草加あたりを帰る雁     虚子

草加駅から北千住へ行き、東武電車浅草行きに乗り換え牛田でさらに京成電車に乗り換え千住大橋駅で下車。日光街道傍に足立市場へ。その一角、二十人も入れば満席という小食堂に十五人、隣り合った蕎麦屋に数人が別れて入る。とても大きな牡蠣フライ、ぶつ切り風の鮪刺し、葱鮪蕎麦など、思い思いにボリュウムたっぷりの昼食にありついた。

芭蕉が知人、門人らに別れを告げた千住大橋の周辺には、「矢立初め」の碑や石柱など奥の細道スポットが幾つかあるが、大型車の往来激しい街道に面した狭いスペース、風情に乏しい。時間をかけて観たのは素盞雄神社。千住宿の文人達が文政三年(一八二〇年)に建てた芭蕉の句碑には、矢立初めの「行春や鳥啼魚の目に泪」の句と、谷文晃の弟子が描いたという線描の芭蕉像。

千住大橋駅から電車を乗り継いで東西線門前仲町駅へ。芭蕉旅立ち時の仮住まい、杉風の別荘だったという採荼庵跡で嵐田名カメラマンによる記念撮影の後、清澄庭園に。園内南の自由広場に「古池やかはづ飛びこむ水の音 はせを」の大きな句碑。庭園の中心にある「大泉水」ではキンクロハジロ、オナガガモなどが鯉の餌に群がり、ぼんやり眺めて日暮れ前のひと時を過ごした。

逆回り大団円宴会場「深はま」には日中の吟行には来られなかった鈴木好夫先生が令夫人と参加され、総勢二十三人というビッグイベントのフィナーレにふさわしい賑やかな席となった。

吟行句会は慣例通りメール句会とし、幹事が取りまとめた選句表で選句し句評を送信する方式で行った。投句3句・選句4句で行った結果、票が拡散し最高点は5点で「逆回り翁振り向く寒の松 睦子」「寒吟行群れを率ゐる赤リュック 昌魚」「望楼の先はみちのく冬日和 正裕」の3句だった。以下4点が2句、3点8句と続いた。

逆回り翁振り向く寒の松      大平 睦子

寒吟行群れを率ゐる赤リュック   髙石 昌魚

望楼の先はみちのく冬日和     徳永 正裕

ふぐ刺にとどむ五年の大吟行    大澤 水牛

たどり来し古池の句碑梅ふふむ   廣上 正市

五年の大団円や春まぢか      廣上 正市

冬温し生年同じ橋渡る       井上庄一郎

鯉の餌掠める鴨のやんちゃ振り   久保田 操

旅終えてまた旅の計寒椿      杉山 智宥

灸もせで歩数伸びたり冬うらら   高瀬 大虫

冬ざれや街を二つに綾瀬川     玉田春陽子

振り返る終りははじめ冬の空    星川 佳子

深川や八寸に春呼び込みて     星川 佳子

(堤てる夫記)

 

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