日経俳句会第218回例会を開催

愉里さん「花吹雪」が最高10点、水牛さん「名残の花」が9点で続く

中野枕流さん、初参加

日経俳句会は4月19日、内神田の日経広告研究所会議室で4月例会(通算218回)を開いた。一気に暖かくなり、あちこちで夏日が観測され、東京もシャツ一枚で過ごせるほどの気温だった。陽気に誘われた訳でもないだろうが17人が出席、いつになく賑やかな句会となった。また、今月から新しく会員になった日経編集局文化部の中野稔さんが、俳号「枕流(ちんりゅう)」を名乗り初参加。拍手で迎えられた。今回の兼題は、「穀雨」と「花」。36人から106句が集まり、選句6句(欠席5句)の結果。一席は向井愉里さんの「花吹雪浴びたくて行きまた戻り」が10点と二桁得点。二席には大澤水牛さんの「番町の名残の花も散りにけり」が9点。三席は「干し若布縺れをほどく風のあり」今泉而云さんと「パンプスで急ぐ穀雨の丸の内」金田青水さんが7点で並んだ。以下6点4句、5点3句、4点6句、3点7句、2点26句、1点28句だった。

兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「穀雨」

パンプスで急ぐ穀雨の丸の内         金田 青水

寛解の報あたたかき穀雨かな         大沢 反平

街路樹の日々艶をます穀雨かな        久保田 操

茄子胡瓜植場所決めて穀雨かな        大澤 水牛

前髪の伸びる速さや穀雨の夜         中嶋 阿猿

麦畑砲弾孔に降る穀雨            篠田  朗

ため池をななめに打ちし穀雨かな       星川 水兎

「花」

花吹雪浴びたくて行きまた戻り        向井 愉里

(黒羽亮一さんを悼む)

番町の名残の花も散りにけり         大澤 水牛

墓誌刻む系譜の絶えて花の下         高井 百子

青空や大坂城は花の陣            溝口戸無広

金髪の遍路過ぎゆく花の下          岩田 三代

城めぐる舟道ふさぐ花筏           中村 迷哲

二眼レフ構える亡父に花八分         大沢 反平

けふもまた車窓の花と対話せり        金田 青水

花の名を忘るる度に教えびと         工藤 静舟

当季雑詠

干し若布縺れをほどく風のあり        今泉 而云

(坂本龍一逝く)

戦メリは昭和の嗚咽月おぼろ         金田 青水

初孫は名付けて翔平鯉のぼり         中沢 豆乳

大口を真上に開けて春の鯉          植村 方円

春昼や待合室のあくびリレー         須藤 光迷

大あくび向かいもつられ春霞         杉山 三薬

晴ればれと後期高齢ミモザ咲く        廣上 正市

ママチャりのヘルメット行く黄砂中      横井 定利

《参加者》【出席17人】嵐田双歩、池村実千代、今泉而云、植村方円、大澤水牛、大沢反平、岡田鷹洋、金田青水、澤井二堂、篠田朗、杉山三薬、鈴木雀九、堤てる夫、中野枕流、中村迷哲、星川水兎、向井愉里。【投句参加19人】伊藤健史、岩田三代、加藤明生、工藤静舟、久保田操、須藤光迷、高井百子、髙石昌魚、高橋ヲブラダ、谷川水馬、徳永木葉、中沢豆乳、中嶋阿猿、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、溝口戸無広、水口弥生、横井定利。

(報告 嵐田双歩)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会第204回例会

18人参加で「陽炎」「桜餅」を詠む

迷哲さん高点句三連発

番町喜楽会は令和5年4月例会(通算第204回)を4月1日、東京・九段下の千代田区生涯学習館で開催した。18人から投句があり、11人が顔を揃えた。兼題は「陽炎」と「桜餅」。選句は6句(欠席者は5句)で句会を進めた結果、中村迷哲さんの「陽炎やジャンボ機ゆらり地を離る」が6点で一席を飾った。二席には嵐田双歩さんの「よくしゃべる女房元気で桜餅」と「残り香のしばらく指に桜餅」、玉田春陽子さんの「仏壇に慶事を報せ桜餅」、中村迷哲さんの「陽炎やどこでも停まる村のバス」と「菜の花や色とりどりのランドセル」、廣田可升さんの「春昼や波郷の町に踏むペダル」の5点句が続いた。また、三席には大澤水牛さんの「陀羅尼助噛みしめてをり菜種梅雨」と廣田可升さんの「喜捨受ける雲水の背の陽炎へり」の4点句が入った。以下、3点が4句、2点12句、1点が21句という結果であった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「陽炎」

陽炎やジャンボ機ゆらり地を離る          中村 迷哲

陽炎やどこでも停まる村のバス           中村 迷哲

喜捨受ける雲水の背の陽炎へり           廣田 可升

「桜餅」

よくしゃべる女房元気で桜餅            嵐田 双歩

残り香のしばらく指に桜餅             嵐田 双歩

仏壇に慶事を報せ桜餅               玉田春陽子

戦火なき国の幸せ桜餅               須藤 光迷

品の良き金継ぎ九谷桜餅              玉田春陽子

酒気帯びし父の土産や桜餅             山口斗詩子

「当季雑詠」

菜の花や色とりどりのランドセル          中村 迷哲

春昼や波郷の町に踏むペダル            廣田 可升

陀羅尼助嚙みしめてをり菜種梅雨          大澤 水牛

掃除機に跨る少女龍天に              谷川 水馬

≪参加者≫【出席11人】今泉而云、大澤水牛、金田青水、須藤光迷、高井百子、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、堤てる夫、廣田可升、前島幻水。【投句参加7人】嵐田双歩、池内的中、澤井二堂、徳永木葉、中村迷哲、星川水兎、山口斗詩子。

(報告・谷川水馬)

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

日経俳句会第217回例会

最高9点に三代句と朗句、二席は百子句「春人事」

36人が「彼岸」「囀」詠む

日経俳句会は令和5年の三月例会(通算217回)を3月15日(水)に鎌倉橋の日経広告研究所会議室で開いた。季節変わりで忙しかったり体調を崩す人もいて出席は13人だったが、女性会員の高点句が相次ぎ、桜の開花と呼応したような華やかな句会となった。兼題は「彼岸」と「囀」。36人から108句の投句があり、6句選(欠席は5句)の結果、最高9点に岩田三代さんの「故郷へ帰れぬ彼岸重ねけり」と篠田朗さんの「囀や窓を五センチ開けた朝」の2句が並んだ。二席8点は高井百子さんの「見開きの紙面あふれる春人事」、三席7点は池村実千代さんの「山ほどのセーター洗ふ彼岸入り」と中村迷哲さんの「せせらぎに囀交じる峡の宿」がそれぞれ入った。さらに6点に髙石昌魚さんの「小さき手をつなぐ皺の手彼岸道」をはじめ4句が並び、5点4句、4点6句、3点10句と高点句が19句にのぼる活況だった。兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「彼岸」

故郷へ帰れぬ彼岸重ねけり              岩田 三代

山ほどのセーター洗ふ彼岸入り            池村実千代

小さき手をつなぐ皺の手彼岸道            髙石 昌魚

よー来たと小豆煮る祖母入彼岸            中村 迷哲

青錆の腕時計巻く彼岸かな              伊藤 健史

戒名のことひそひそと春彼岸             今泉 而云

サーファーの日毎にふえて彼岸かな          須藤 光迷

薄紅に山の膨らむ彼岸過               向井 愉里

入彼岸墓に愛とか絆とか               嵐田 双歩

父母としばしの会話彼岸かな             堤 てる夫

山門を開け放ちてや彼岸来る             溝口戸無広

「囀」

囀や窓を五センチ開けた朝              篠田  朗

せせらぎに囀交じる峡の宿              中村 迷哲

谷越の囀を聞く朝湯かな               大澤 水牛

囀りに覚める実家の長寝かな             向井 愉里

囀りや一日千歩目標に                横井 定利

囀れば上にはカラス下にネコ             杉山 三薬

囀りの聞こえぬと言ふ老いうらら           高井 百子

「当季雑詠」

見開きの紙面あふれる春人事             高井 百子

空の青大地に散らし犬ふぐり             岩田 三代

山笑ふ草食む牛の大あくび              加藤 明生

卒業式初めましてと言いそうに            杉山 三薬

宇宙への夢挫かれて春の塵              須藤 光迷

雛納め妻の背中が丸くなる              旙山 芳之

春愁を丸め飲込むティータイム            久保田 操

スマホだけポッケに入れて春の町           植村 方円

春昼や人みな吾を追ひ抜きて             金田 青水

春キャベツ耳たぶのよな餃子茹で           中嶋 阿猿

絵手紙は貰ふばかりよ葱坊主             今泉 而云

《参加者》【出席13人】嵐田双歩、池村実千代、今泉而云、岩田三代、大澤水牛、岡田鷹洋、金田青水、澤井二堂、篠田朗、杉山三薬、鈴木雀九、中村迷哲、星川水兎。【投句参加23人】伊藤健史、植村方円、大沢反平、荻野雅史、加藤明生、工藤静舟、久保田操、須藤光迷、高井百子、髙石昌魚、高橋ヲブラダ、谷川水馬、堤てる夫、徳永木葉、中沢豆乳、中嶋阿猿、野田冷峰、旙山芳之、藤野十三妹、溝口戸無広、水口弥生、向井愉里、横井定利。

(報告 中村迷哲)

 

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

酔吟会第161回例会

深川・芭蕉記念館で「春光」「菜飯」を兼題に開催

体調不良を押して参加の木葉さん最高6点で意気軒昂

酔吟会は3月11日(土)、令和5年第2回例会を江東区常盤の「芭蕉記念館」で開いた。同館で開催するのは今年初。この日の出席者は、昨年末から体調を崩していた徳永木葉さんを含めて14人。急に春めいてきた穏やかな日の午後、恒例により持ち寄った作品を短冊に書くことから和気あいあいと始まった。

例会の兼題は「春光」と「菜飯」、雑詠を含め投句は1人5句の計70句、選句6句で進めた結果、最高は木葉さんの「母の忌の菜飯にぎりのほろ苦き」の6点句だった。次席は4点で大澤水牛さんの「春光の隅田河畔にカレーパン」、金田青水さんの「春光や我れ単線の客となる」、玉田春陽子さんの「入彼岸こゑ聞くだけと電話来る」と「のどけしや窯入りを待つ鬼瓦」の二連発、そして廣田可升さんの「湾に満つ大漁旗や春の風」の5句がひしめいた。続く3点句には嵐田双歩さん、青水さん、谷川水馬さん、春陽子さんら手慣れの4句が並んだ。以下2点は13句、1点が20句。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「春光」

春光の隅田河畔にカレーパン      大澤 水牛

春光や我れ単線の客となる       金田 青水

立読みの列春光の神保町        嵐田 双歩

春光や寝釈迦の起る気配なく      玉田春陽子

「菜飯」

母の忌の菜飯にぎりのほろ苦き     徳永 木葉

百万遍おんなじ話菜飯碗        金田 青水

「当季雑詠」

入彼岸こゑ聞くだけと電話来る     玉田春陽子

のどけしや窯入りを待つ鬼瓦      玉田春陽子

湾に満つ大漁旗や春の風        廣田 可升

春昼や寝落ちてばさり文庫本      谷川 水馬

【参加者14人】嵐田双歩、今泉而雲、大澤水牛、金田靑水、久保道子、杉山三薬、須藤光迷、高井百子、谷川水馬、玉田春陽子、堤てる夫、徳永木葉、廣田可升、向井愉里

(まとめ 高井百子)

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会第203回例会

 

「春風」と「雀隠し」を詠む

水牛、水兎、春陽子が首位6点に並ぶ

番町喜楽会は令和5年の3月例会(通算第203回)を6日午後6時半から東京・九段下の千代田区生涯学習館で開催した。兼題は「春風」と「雀隠れ」で、雑詠を含め投句5句、選句6句(欠席者は5句)で句会を進めた結果、首位の6点に大澤水牛さんの「亀鳴くや卒寿の姉の長電話」、玉田春陽子さんの「街角に地図読む人や春の風」、星川水兎さんの「押せば出る箪笥なだめて春の風」の3句が並んだ。次席は5点で中村迷哲さんの「春風を懐に入れ龍馬像」のみだったが、三席の4点は5句にのぼり、3点は6句だった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「春風」

街角に地図読む人や春の風        玉田春陽子

押せば出る箪笥なだめて春の風      星川 水兎

春風を懐に入れ龍馬像          中村 迷哲

五十段あと五十段春の風         今泉 而云

しいたけの駒打つ山に春の風       谷川 水馬

春風や宝石つけて髙島屋         星川 水兎

「雀隠れ」

猫の墓雀隠れとなりにけり        廣田 可升

ロンパース雀隠れをよいこらしょ     大澤 水牛
「当季雑詠」

亀鳴くや卒寿の姉の長電話        大澤 水牛

手間かけてロールキャベツの日永かな   高井 百子

火の神を風の神追ふ野焼かな       玉田春陽子

猫の子にミルク持ち寄る校舎裏      中村 迷哲

ぽつねんとひいな飾りの前に座す     山口斗詩子

春疾風ドミノ倒しの駐輪場        廣田 可升

勝浦の大石段に雛揃ひ          向井 愉里

【句会出席者】(15人)嵐田双歩、池内的中、今泉而云、大澤水牛、金田青水、須藤光迷、高井百子、田中白山、玉田春陽子、堤てる夫、中村迷哲、廣田可升、星川水兎、前島幻水、向井愉里。【投句参加者】(4人)澤井二堂、谷川水馬、徳永木葉、山口斗詩子。

(報告 須藤光迷)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

23年英尾忌墓参八王子吟行

夕焼け小焼けの里を巡りアイリッシュパブへ

2月28日、日経俳句会と番町喜楽会の有志7人で春の恒例行事「村田英尾先生墓参吟行」を催行した。午前11時半にJR高尾駅に集合、八王子霊園に眠る英尾先生の墓参後、バスに揺られて八王子市恩方の「夕焼小焼ふれあいの里」に行った。ここは甲州街道の裏街道に当たり、「これが東京都?」と言うような山間で、童謡「夕焼け小焼けで日が暮れて、山のお寺の鐘が鳴る」の作詞家中村雨紅の生まれ育った場所だ。雨紅の生まれた神社や小学校、関所跡などを吟行、高尾山口のアイリッシュ・パブ「ケルティック・ムーン」で懇親会を開いた。

吟行俳句会は杉山三薬幹事の出した席題「唱歌・童謡・わらべうた」と、当日嘱目の投句3句をその日に集め、選句表を参加者にメール送信、「5句選句、句評を付けてまとめ役の水牛宛送信する」方式で行った。参加者の作品は以下の通り。

校舎より春の小川の童歌        嵐田 双歩

水温む宮尾神社の手水鉢

春眠し通学バスの童たち

英尾碑に合格祈る春陽射し       池村実千代

春うらら短調で弾くわらべ歌

レンギョウや古き学舎夢ありて

眠む眠むの児を抱きつつ春の風     今泉 而云

青空へ樹々の競へる春の山

股ぐらの下やちらほら春の草

早春の夕焼け小焼け急ぎ足       大澤 水牛

野蒜萌ゆ武田の姫の隠れ里

のどけしや高尾のパブの黒ビール

墓参行峰見上げれば杉の花       杉山 三薬

童謡の里ゆくバスを待つうらら

春の宴モーリンオハラを前菜に

お墓前一年ぶりのすみれかな      田中 白山

けやきの芽青空によく似合ひけり

ものの芽や席ゆずる子等地元の子

師の墓参〆はギネスや春の宵      玉田春陽子

旧仮名の童謡歌碑や春高尾

うららかや裏街道の番所跡

(まとめ 大澤水牛)

 

Posted in 句会報告, 未分類 | Leave a comment

府中市郷土の森観梅吟行

13人参加、早春の花を愛で、連句も挙行

日経俳句会と番町喜楽会合同で、2月11日(土)建国記念の日に府中市にある郷土の森公園を訪れる吟行を催行した。前日、関東全域にドカ雪が降り積もり開催が危ぶまれたが、当日はすっきりと晴れ上がった。ちょうど「梅まつり」が開かれていた園内では梅、福寿草、金縷梅などの早春の花が開き、残る雪の中の散策を楽しんだ。さらに、明治天皇が兎狩の際に休憩・宿泊所として使われた旧田中家住宅を借りて連句の会も開催大いに盛り上がった。吟行には総勢13人が参加。旧田中家をお休みどころにして、梅園や歴史を物語る移築建築物などを散策し、連句を14句目(全体36句の「歌仙」様式)まで巻いたところでお開きとなった。

吟行句会は兼題を「梅」、席題を「戦、諍い」、嘱目の三句とし、当日その場で句会を開く予定だったが、杉山三薬吟行幹事の采配で恒例のメール句会とすることに決定、12人から36句の投句があった。5句選の結果、最高6点には三薬さんの「大欅囲む手と手の暖かさ」が輝いた、また二席5点には嵐田双歩さんの「大店の遅日の部屋を昼の酒」が入った。

《参加者13人》嵐田双歩、今泉而云、岩田三代、大澤水牛、杉山三薬、鈴木雀九、鈴木玲子(夫人)、須藤光迷、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、廣田可升、向井愉里。

《吟行参加者代表句》

大店の遅日の部屋を昼の酒      嵐田 双歩

古民家へ一歩一歩や春の泥      今泉 而云

春の雪藁屋根つたひ滴りぬ      岩田 三代

白梅の香り立ちたる行在所      大澤 水牛

大欅囲む手と手の暖かさ       杉山 三薬

土黒く土温くして福寿草       鈴木 雀九

七段の雛は薬種屋蔵造り       須藤 光迷

梅見する心の隅にウクライナ     田中 白山

日の匂ふ昔戦さ場福寿草       谷川 水馬

せめぎあふ和洋たんぽぽ古戦場    玉田春陽子

苦吟する連句の庭に梅二輪      廣田 可升

残雪に青き武者像凛と立ち      向井 愉里

(まとめ 谷川水馬)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

日経俳句会第216回例会

反平句「添い寝」が最高10点、二席9点方円句「サプリ」

兼題の「獺祭」にみんな苦吟

日経俳句会は2月15日、内神田の日経広告研究所会議室で2月例会(通算216回)を開いた。この日は厳しい寒の戻りで、冷たい北風に震え上がった。体調を崩した会員もいて出席は13人とやや寂しかったが、合評会に入ると議論百出。熱気で暖房温度を下げるほどだった。

兼題は、この日に相応しく「余寒」と珍しい季語「獺祭」。特に獺祭は苦吟の跡のにじむ句が多かった。36人から106句が集まり、選句6句(欠席5句)の結果、一席は大沢反平さんの「介護の夜妻に添い寝の余寒かな」が10点。二席には植村方円さんの「気休めのサプリ並べて獺祭」が9点で続いた。三席は「おばちゃんもモンローになる春一番」中沢豆乳さんと「梅東風や茶筒の蓋のぽんと鳴る」星川水兔さんが7点で並んだ。以下6点3句、5点4句、4点6句、3点9句、2点27句、1点18句だった。兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「余寒」

介護の夜妻に添い寝の余寒かな            大沢 反平

ダウン着て少女ビラ撒く余寒かな           中村 迷哲

熱燗を飛切燗とする余寒               大澤 水牛

真鍮の手摺に宿る余寒かな              中嶋 阿猿

夜の地震掴む柱の余寒かな              星川 水兎

花柄の傘の手すくむ余寒かな             溝口戸無広

きーきーと鳥姦しき余寒かな             嵐田 双歩

らっしゃいの笑顔が溶かす余寒かな          金田 青水

吉報に余寒吹き飛ぶ受験生              篠田  朗

衣装箱再び荒るる余寒かな              髙石 昌魚

「獺祭」

気休めのサプリ並べて獺祭              植村 方円

膏薬を肩に背中に獺祭                嵐田 双歩

片付かぬ部屋にこもりて獺祭             岩田 三代

ほろ酔ひて書店漁るや獺祭              溝口戸無広

老いてなほ食べ盛りなり獺祭             加藤 明生

獺祭り口伝も絶えて村廃る              篠田  朗

獺祭の部屋から長女いざ国試             旙山 芳之

当季雑詠

おばちゃんもモンローになる春一番          中沢 豆乳

梅東風や茶筒の蓋のぽんと鳴る            星川 水兔

増え続く空き家どうする猫の恋            須藤 光迷

雪掻けば近所交流始まりぬ              高井 百子

ゆらゆらと光の波紋水温む              岩田 三代

終バスのまた一人減り冴返る             嵐田 双歩

春浅し巣穴の熊の二度寝かな             篠田  朗

朝のミサ何だか嬉し春の雪              池村実千代

百まではまだ十五年春うらら             横井 定利

《参加者》【出席13人】嵐田双歩、池村実千代、今泉而云、植村方円、大澤水牛、岡田鷹洋、篠田朗、杉山三薬、鈴木雀九、堤てる夫、中村迷哲、星川水兎、向井愉里。【投句参加23人】伊藤健史、岩田三代、大沢反平、大下明古、加藤明生、金田青水、工藤静舟、久保田操、澤井二堂、須藤光迷、高井百子、髙石昌魚、高橋ヲブラダ、谷川水馬、徳永木葉、中沢豆乳、中嶋阿猿、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、溝口戸無広、水口弥生、横井定利。 (報告 嵐田双歩)

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会第202回例会

「二月」と「末黒野」を詠む

水馬さん末黒野句で6点獲得

番町喜楽会は令和5年2月の例会(通算第202回)を2月4日、東京・九段下の千代田区生涯学習館で開催した。19人から投句があり、句会には17人が顔を揃えた。兼題は「二月」と「末黒野」。選句は6句(欠席者は5句)で句会を進めた結果、谷川水馬さんの「末黒野や妻のバリカン絶好調」が6点で一席を飾った。二席には大澤水牛さんの「三つ四つ五つと数へ今朝の梅」と山口斗詩子さんの「ひとり身も十年経ちぬ春袷」の5点句が続いた。また、三席には今泉而云さんの「三日ほど晴れて焼野の匂ひかな」、中村迷哲さんの「ちらほらと日記に白紙はや二月」、廣田可升さんの「圧力鍋やけに元気な二月かな」と「ヨガマット伸べて瞑想日脚伸ぶ」の4点句が入った。以下、3点句が10句、2点句が8句、1点句が29句という結果であった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「二月」

ちらほらと日記に白紙はや二月           中村 迷哲

圧力鍋やけに元気な二月かな            廣田 可升

領収書俄かに探す二月かな             嵐田 双歩

何つくらむ二月畑の無限大             大澤 水牛

生徒らに岐路現るる二月かな            中村 迷哲

目標を下方修正する二月              向井 愉里

「末黒野」

末黒野や妻のバリカン絶好調            谷川 水馬

三日ほど晴れて焼野の匂ひかな           今泉 而云

末黒野や友にあげたし時薬             高井 百子

陽を浴びる末黒野千里牛を待つ           中村 迷哲

「雑詠」

三つ四つ五つと数へ今朝の梅            大澤 水牛

ひとり身も十年経ちぬ春袷             山口斗詩子

ヨガマット伸べて瞑想日脚伸ぶ           廣田 可升

春立つや納戸に眠る旅鞄              嵐田 双歩

腰よじり放る投網や浜うらら            金田 青水

吊るされてコートの肘に曲り癖           玉田春陽子

あの山の彼方に故郷雪催い             前島 幻水

≪参加者≫【出席17人】嵐田双歩、池内的中、今泉而云、大澤水牛、金田青水、須藤光迷、高井百子、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、堤てる夫、徳永木葉、中村迷哲、廣田可升、星川水兎、前島幻水、向井愉里。【投句参加2人】澤井二堂、山口斗詩子。  (報告・谷川水馬)

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment

番町喜楽会年間優秀作品三句を発表

堤てる夫、星川水兎、谷川水馬三氏が受賞

番町喜楽会は令和4年の全作品1274句から優秀作品3句を選定、2月4日に開催された第202回例会に先立って授賞式を行い、受賞者3名に賞品を贈った。この日は句会出席者が17名と最近にない盛況で、受賞者に対し参加者全員から、惜しみない拍手が送られた。優秀作品賞は令和元年に創設されたもので、今回で4回目となるが、星川水兎さんは最初の複数回受賞者となった。

《令和4年度番町喜楽会最優秀作品》

秋涼のどっと入り込む朝の窓    堤 てる夫

母の日にまるまる母を洗ひたり   星川 水兎

草の芽やちび怪獣に歯が生えた   谷川 水馬

≪選考経過≫

令和4年12月例会終了後、番町喜楽会の一年間の作品集を作成し、この中から今泉而云・大澤水牛両氏に年間代表作品137句を選んでいただきました。さらにこの中から、規定により前年受賞者の句を除いて、3句(3名)を優秀作品賞句として選定していただきました。また、受賞句に準ずる句として、両氏それぞれ次点句3句を選んでいただきました。以下に受賞句と選評、受賞者の言葉、次点句及び選評を掲載いたします。

(報告;番町喜楽会会長廣田可升)

《優秀作品賞の選評と受章者の言葉》

秋涼のどっと入り込む朝の窓    堤 てる夫

【選評】 一読、この場所は東京ではない、と気づき、学生時代、蓼科にあった大学関係の施設での合宿を思い出した。起床時間が来ると、グループのリーダーが各部屋の窓を、次々に開けていくのだ。風がそれこそ「どっと」窓から吹き込み、布団にもぐり込んでいた者どもを叩き起こす。句を眺め、思い出に浸っているうちに、「作者はあの人かな」と気づく。やがてその通りであることが判明した。(今泉而云)

【選評】 「秋が来たぞ」という思いを、これほど勢い良く、印象深く詠んだ句はありません。作者は私と違って早起きなんでしょう。朝早く目覚めるとすぐに雨戸を開け、窓を開ける。途端に明らかに昨日までとは違う空気を感じたというのです。「どっと」という擬音語(副詞)を存分に働かせています。実に爽やかで気持の良い句です。(大澤水牛)

≪受賞の言葉:堤てる夫≫

まさに驚天動地の出来事であります。どれくらいびっくりしたかと言うと、受賞の言葉を思いつかないくらいびっくりしたということです。有難うございました。

母の日にまるまる母を洗ひたり   星川 水兎

【選評】 母の日に母をまるまる洗うとは・・・、何と素晴らしい俳句作品だろうか。私が購読している日経や東京新聞の俳句欄の選者などが「この句をどう評価するか」と考えた。日に何百句、日によっては千句に余るという投句の最上位に選ばなければ、「選者は失格だ」と私は思った。「母をまるまる」という短い言葉の中に満ちる母への思いとその状況。絶賛せずにいられない。(今泉而云)

【選評】 老いた母親をいとおしむ様子がまざまざと描かれて、思わず涙が出て来てしまいました。悲しいからではない、感動からです。この句は「まるまる母を洗ひたり」と、まるで幼児や、あるいは愛犬を入浴させている感じで、むしろ無造作な詠みっぷりに可笑しみを覚え、やがてしみじみとして来るのです。而云さんも言ってましたが、この句は番喜会令和四年の最高傑作ではないかなと思いました。(大澤水牛)

≪受賞の言葉:星川水兎≫

この句で賞をいただくのは、なによりも長生きしてくれた母に感謝しないといけないなと思っています。有難うございました。

 

草の芽やちび怪獣に歯が生えた   谷川 水馬

【選評】 我が家の“ちび怪獣たち”が中年になったいま、実に懐かしく、「ウチの子もそうだった」と思い返さざるを得ない。乳児の歯はまず、下の歯茎が固くなり始め、間もなく白い歯が伸び出して行く。ウチの怪獣たちも活発な方で、日毎の変化の一つ一つが親や祖父母の楽しみになっていた。草の芽との取り合わせは、誰もが素直に受け取ることが出来るだろう。(今泉而云)

【選評】 明らかに「孫俳句」だが、孫とは一言も言っていない。そこが成功の所以でもありましょう。孫俳句にありがちなベタベタな感じが全く無い、読んでいて気分のいい句です。作者にとっては何ものにも代え難い宝物。それを「ちび怪獣」と呼んでいる。ちょうど歯が生え初める頃は活発になり、手当たりしだいに物を掴んではかじったり投げたり・・、オジイチャンは扱いかねることもしばしば。まさに勢い良い草の芽そのまま。取り合わせた季語がとても良かった。(大澤水牛)

≪受賞の言葉:谷川水馬≫

思ったことをそのまま詠んだら句になったというようなことで、次点の方の句を拝見しますと、ほんとうにこの句でいいのかという気がします。とても面映ゆい気持ちですが、有難くいただきます。

《次点三句》

今泉而云選

全山の音閉じ込めて滝凍る     中村 迷哲

【選評】凍て滝が「全山の音をとじ込める」という表現に「全くその通り」と頷いた。長野県や山梨県で、凍て滝を三つほど眺めた記憶があるが、滝の大小に関わらず、その周辺は森閑を極めていた。句をしばらく眺めて気が付けば、我が身も凍て滝に閉じ込められた心地になっていたのであった。

笹舟の疎水に早し夏来たる     廣田 可升

【選評】琵琶湖疎水を流れて行く笹船の様子を、作者から聞いたことがある。石材で築かれた南禅寺の疎水を行く笹舟を思い描き、夏来たる頃の南禅寺周辺の興趣を思わずに居られない。笹船を流すオジサンの様子や表情なども、あたかも我が目で見たように頭の中に浮かんできた。

夜店の灯紅く寂しく灯りけり    塩田 命水

【選評】夜店の灯が「紅く寂しく」とは。状況をしばらく思い描いた末に、ああそうか、と気づいた。コロナ禍の中、とりあえず夏祭りの夜店が開かれたが、「紅く寂しく」は神社へのお参りの人が少なく、夜店のオジサンの表情は冴えないのだ。

大澤水牛選

田水入る一番乗りはあめんぼう   高井 百子

【選評】あめんぼうという奴は水の匂いを嗅ぎつけるのか、水が溜まると真っ先に現れます。子供の頃それが不思議でたまらず、どこから湧いてくるのだろうかと水たまりを見張って居たものです。その頃はアメンボウには羽根があって飛んで来るとは知らなかったのです。この句も田植えで水が引き入れられた田んぼに「あら、もうアメンボが」とびっくりしている様子を詠み止めています。「代掻きの後澄む水に雲の影 悌二郎」という田植え用意の整った静かな一瞬を捉えた佳句がありますが、掲句は雲の影ではなくアメンボが飛んで来たと動きのある景色で、一層面白くしています。

川底の澄みて立夏の神田川     向井 愉里

【選評】本格派の俳句と言ったらいいでしょうか。すっと詠んでいながら風格があります。五月五日の都電荒川線吟行でまず最初に訪れた関口芭蕉庵の道すがらのぞいた神田川の様子です。私もしげしげ見つめたのですが、こんな名句は生まれませんでした。この句は「別にどうと言うことも無いんだが、いい句だなあと思ってしまう」といった句です。立夏の清々しい感じがします。こういう句を詠もうと心がけなさいという教科書かも知れません。

さあ九月怠惰蹴散らし婆の立つ   山口斗詩子

【選評】年寄りの住まいは知らず知らず汚くなっていきます。私ども老夫婦の家がまさにそれです。ちらかすつもりは無いし、昔ほど活発に家事労働をするわけではないのだから、さほど汚れないはずなのに、ふと気がつくと部屋のあちこちに空き箱やら、衣類・洗濯物の類が重なっていたりします。何の気なしに置いたものがいつの間にか溜まっていくのでしょう。それを作者は一念発起、「さあ九月だ」と立ち上がったのです。残暑の八月を越えて、タイミングとしてはちょうど良い時と言えましょう。なんと言っても、この意気軒昂たるところに打たれました。

 

 

 

Posted in 句会報告 | Leave a comment