番町喜楽会2年ぶりの本格吟行句会

14人参加深川で芭蕉の足跡たどる

番町喜楽会は10月16日の土曜日、下町・深川に芭蕉の足跡をたどる吟行を催行した。総勢14人が深川に散在する芭蕉の旧跡を巡り、江東区芭蕉記念館に席を借りて句会を行った。コロナ禍で月例句会もメール開催が続き、本格的な吟行は千葉・養老渓谷以来2年ぶり。午前十一時に地下鉄清澄白河駅に顔を揃えたのは、嵐田双歩、今泉而云、大澤水牛、金田青水、澤井二堂、須藤光迷、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、徳永木葉、中村迷哲、廣田可升、前島幻水の番喜会メンバーに、日経俳句会から紅一点、向井ゆりさんが加わった。

最初に訪ねたのは、駅から50メートルほどの臨川寺。芭蕉が「蕉風開眼」を果たすきっかけとなった重要な史跡。日本橋から深川芭蕉庵に移り住んだ芭蕉は、ここの仏頂和尚の元に通い詰め、禅を修行し、莊子を始めとした漢籍を学んだという。庭には「墨直しの碑」など芭蕉ゆかりの石碑が並び、その脇に植えられた檀(まゆみ)の赤い実が爆ぜて、秋の終りを告げていた。

これ時雨かな吟行に行く朝       而云

まゆみの実芭蕉の句碑にはね返る    水牛

臨川寺を出て小名木川にかかる萬年橋に向かう。途中、相撲部屋をいくつか見かける。寺尾が開いた錣山部屋、琴風の尾車部屋、安芸乃島の高田川部屋など二所ノ関一門の部屋が多い。昼近い刻限のせいか、どこも入り口やシャッターを閉じ、人影はない。

相撲部屋シャッター降りて冬隣    ゆり

10分ほどで萬年橋に着く。橋の下を流れる小名木川は江戸時代に、房総の塩や野菜、米を運び込むために作られた運河。萬年橋は河口近くに架けられた橋で、船の通行を妨げないよう橋脚の高い太鼓橋だった。北斎の浮世絵にその優美な姿が描かれ、広く知られている。仏頂和尚の元に参禅に通う芭蕉も何度も渡ったに違いない。現在は鉄骨のアーチ橋に架け替えられている。たもとには巨大な「新小名木川水門」が設置され、船舶の往来を制御している。

深川は芭蕉と水門同居して       二堂

行く秋の小名木水門元番所       白山

萬年橋の脇の階段を降りると、墨田川との合流点に出る。川岸に遊歩道(テラス)が作られ、墨田川や対岸の景色、往来する船を眺めながら散策ができる。「芭蕉野分して盥に雨を聞夜哉」など、芭蕉庵で詠まれた句をステンレス製の板に刻んだ句碑が点々と置かれている。

秋惜しむステンレス製芭蕉句碑     春陽子

潮の香のただよふ街の秋気かな     青水

遊歩道から「芭蕉庵史跡展望庭園」に登る。庭園への階段は山寺をイメージし、小さな池は蛙が飛び込んだ古池を模したという。池には赤い萩の花が散りかかり風情がある。一角に墨田川に向けて芭蕉の座像が設置されている。

赤萩の散り込む池や芭蕉像       光迷

深川の川霧かかる芭蕉像        幻水

庭園から下って、すぐの芭蕉稲荷神社に向かう。芭蕉庵があったとされる場所に造られた芭蕉稲荷は、大正6年の大洪水の後に、芭蕉が愛好したといわれる石造の蛙が発見されたことから、創建されたもの。小さな社殿の脇に「史跡芭蕉庵跡」の石碑があり、境内のあちこちに石造りの蛙が置かれ、空をにらんでいる。洪水の時に発見された〝本物の〟石蛙は芭蕉記念館に展示されている。

秋更くる石の蛙に水場なく       木葉

跳べぬ身の冬空睨む石蛙        迷哲

芭蕉稲荷で参拝を終えて芭蕉記念館に着く。記念館は芭蕉の業績を顕彰するため江東区が1981年に開設したもの。地元に住んでいた文人政治家・真鍋儀十が寄贈した芭蕉や俳諧の資料1200点がベースになっている。玄関脇には大きな芭蕉が植えられ葉を茂らせている。三階建ての建物を取り囲むように池を配した日本庭園が設けられ、落ち着いた佇まい。芭蕉の句に詠まれた草木が植えられ、四季折々の変化を愛でることができる。築山の上には芭蕉堂が築かれ、「古池や~」をはじめ三つの句碑が置かれている。

深川は坂のない町破芭蕉        水馬

行く秋を句友と歩む芭蕉径       双歩

記念館では番喜会会長廣田可升さんの知り合いの記念館次長野呂達矢さんに館内を案内してもらう。ちょうど旧暦十月十二日の芭蕉忌に合わせた「時雨忌 全国俳句大会」の企画展示が行われており、「初しぐれ猿も小蓑をほしげ也」の句を収めた「猿蓑」をはじめとする俳諧集や俳画、肖像画など充実した内容だ。さらに常設展示では、石の蛙に対面。芭蕉と深川の関わり、芭蕉庵での暮らしぶりなど、丁寧に解説して頂いた。

午後2時からいよいよ句会開始。大広間の大きく開けた窓からは、眼下に墨田川が広がる。芭蕉ゆかりの地での吟行に佳句が続出、和気あいあいの句座が4時半まで続いた。

秋の句座障子あければ隅田川      可升

(報告 中村迷哲)

 

 

 

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