清瀬吟行を開催

10月18日(土)、日経俳句会・番町喜楽会合同で東京清瀬市の清瀬サナトリウム跡地や国立ハンセン病資料館などを巡る「清瀬風立ちぬ吟行」を実施した。参加者は、大澤水牛、金田青水、坂部富士子、中村迷哲、廣田可升、向井愉里、杉山三薬の7人。

昭和6年に東京府清瀬村に設立された「東京府立清瀬病院」と同14年設立の「傷痍軍人東京療養所」を引き継いで、現在の独立行政法人東京病院になった。昭和20年代には府立清瀬病院を中心に十数の結核療養所が設置され、5千人もの患者が治療を受け、俳人の石田波郷、小説家の吉行淳之介、福永武彦、結城昌治などが療養していた。しかし現在は結核で長期療養する患者が減ったせいか、サナトリウムのあった場所は草茫茫の広大な空地で、往時、療養患者の憩いの場であった「桜の園」など、植えられて80数年たち寿命の尽きたソメイヨシノが朽ち折れたまま放置されている。一行はそうした手入れのされていない雑木林、草むら、病院の職員寮などが点在する中をただただ歩く。誰も取らない実をたわわにつけた柿の木や蜜柑の木が寂しげだ。結核療養という性質上、文化遺産とか、歴史遺産というには、憚られるものがあるのだろう。残す、というより、消えて行くのを待つという気配が感じられる。清瀬市などが作っている歴史資料にも「負の遺産」と表現された例が記されている。

次の目的地はもう一つの負の遺産「ハンセン病資料館」。ハンセン病療養所「多摩全生園」に隣接して、一九九三年に設立され、これまでに約五十六万人が来館したという。療養所といえば聞こえは良いが、実態は隔離施設。療養所内を再現したジオラマや、収容された人たちの作った日用品から囲碁将棋をはじめとした趣味の道具類等、一つ一つに患者たちの苦悩や思いがこもっている。一同、そうした展示資料、事実の重さにすっかり圧倒された。館を出た句友たちしばらく無言で帰路についた。吟行目的地としてはおよそ不似合いなものではあったが、実に深い感銘を受けた。

吟行句会はいつものように後日、幹事に三句メール送信し、メールで互選する方式をとった。参加者7人の代表句は次の通り。

折れ朽ちし桜の園の秋の蝶        大澤 水牛

吾が血潮いくらでも吸へ秋やぶ蚊     金田 青水

もぎたての柿を拭きをる句友かな     坂部富士子

秋闌けて思いは重い資料館        杉山 三薬

救癩の重き歴史や秋の園         中村 迷哲

置き去りのベンチのモダン冬隣      廣田 可升

木の実降る緑陰通りそぞろ行く      向井 愉里

(報告 杉山三薬・大澤水牛)

 

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日経俳句会第243回例会

35人参加「後の月」と「とろろ汁」を詠む

首位はヲブラダ句「咽頭がん」、二席に三薬句「千住大橋小橋」

日経俳句会は10月15日(水)、神田・鎌倉橋の日経広告研究所会議室で10月例会(通算243回)を開いた。ようやく涼しくなった途端に、この日は肌寒さを感じるほどの秋の夕。出席者は9人と少なかったものの、いつものように忌憚のない句評もあり、実りある句会となった。「後の月」と「とろろ汁」の兼題に、35人から105句の投句があり、6句選(欠席は5句)の結果、一席は高橋ヲブラダさんの8点句「咽頭がん全て取れたぞとろろ汁」、二席は杉山三薬さんの「十三夜千住に大橋小橋あり」が6点で続いた。三席は、高井百子さんの「生家跡灯籠だけの十三夜」、岩田千虎さんの「溜息も愚痴も呑み込みとろろ汁」、須藤光迷さんの「塗箸の先の剥げたりとろろ汁」、大沢反平さんの「老妻の食の細さよ衣被」、中村迷哲さんの「鳥獣とせめぎ合ふ里秋深し」の5句が5点で並んだ。以下、4点10句、3点14句、2点18句、1点22句だった。

兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「後の月」

十三夜千住に大橋小橋あり              杉山 三薬

生家跡灯籠だけの十三夜               高井 百子

万博や残るリングに後の月              伊藤 健史

縁台に君の残り香後の月               中野 枕流

たたら跡渡来の墓や十三夜              廣上 正市

一筋の航跡照らす後の月               岩田 千虎

いつまでも続くおしやべり十三夜           加藤 明生

古書店のビルの狭間に後の月             久保田 操

十三夜塔にぽつんとポンジュース           高井 百子

礎石だけ残る都府楼後の月              中村 迷哲

雲切れて不作の村に後の月              中沢 豆乳

「とろろ汁」

咽頭がん全て取れたぞとろろ汁            高橋ヲブラダ

溜息も愚痴も呑み込みとろろ汁            岩田 千虎

塗箸の先の剥げたりとろろ汁             須藤 光迷

ちさき手ですり鉢おさえとろろ汁           池村実千代

けふもまたする事もなきとろろ汁           伊藤 誠一

分け合いし人思い出すとろろ汁            伊藤 健史

擂鉢は妻が抑へてとろろ汁              大澤 水牛

とろろ汁隅田の川をそばに見て            加藤 明生

すり鉢は孫の支えるとろろ汁             中村 迷哲

当季雑詠

老妻の食の細さよ衣被                   大沢 反平

鳥獣とせめぎ合ふ里秋深し              中村 迷哲

顔洗ふ蛇口の水に遅き秋               岩田 千虎

寛解と手をにぎり合ふ菊日和             金田 青水

庭の柿陽射しを浴びて輝けり             堤 てる夫

秋ともし古事記の謎に迷ひ込む            徳永 木葉

野に還る途中の棚田赤とんぼ             廣上 正市

日本にたまたま生まれ栗ご飯             嵐田 双歩

欲少し米寿迎える豊の秋               岡田 鷹洋

気球より眺むる古墳秋深し              加藤 明生

夜学の灯小百合と学び傘寿なり            中沢 豆乳

《参加者》【出席9人】嵐田双歩、大澤水牛、金田青水、坂部富士子、篠田朗、杉山三薬、中村迷哲、星川水兎、溝口戸無広。【投句参加26人】池村実千代、伊藤誠一、伊藤健史、岩田千虎、植村方円、大沢反平、岡田鷹洋、岡松卓也、加藤明生、工藤静舟、久保道子、久保田操、澤井二堂、須藤光迷、高井百子、高橋ヲブラダ、堤てる夫、徳永木葉、中沢豆乳、中嶋阿猿、中野枕流、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、向井愉里、横井定利。 (報告 嵐田双歩)

 

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番町喜楽会第232回例会

17人参加、「鰯雲」と「水澄む」を詠む

可升さんの“挑む古城”がトップ6点

番町喜楽会は令和7年10月4日(土)、東京・九段下の千代田区生涯学習館で第232回例会を開催した。朝晩ようやく涼しくなり、ことにこの日は夕方に一雨あって過ごしやすくなったのだが、これまでの異常な猛暑続きで家族や自身の体調に狂いを生じた向きもあり、出席者は7人に止まった。ただし欠席者も全員投句、番喜会常連17人の句が出そろった。今回の兼題は「鰯雲」と「水澄む」。投句総数は82句で、6句選(欠席者は5句)で選句を進めた結果、第一席「天」の位は6点で廣田可升さんの「秋灯下挑む古城は一〇〇〇ピース」。「地」の位5点には嵐田双歩さんの「国東の水澄む磯の兜蟹」、斉山満智さんの「しっぽ立て迎える猫のいない秋」、大澤水牛さんの「百千の嘘を沈めて水澄めり」の3句が並んだ。「人」の位4点には6句がひしめき合い、3点3句、2点10句、1点18句という乱戦模様を呈した。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「鰯雲」

生涯の転居いくたび鰯雲               徳永 木葉

能登の海越えて棚田へ鰯雲              須藤 光迷

その下は海なし県や鰯雲               玉田春陽子

電柱は地中化してよ鰯雲               須藤 光迷

鰯雲手足拡げて露天風呂               前島 幻水

「水澄む」

百千の嘘を沈めて水澄めり              大澤 水牛

国東の水澄む磯の兜蟹                嵐田 双歩

水澄むや跡継ぎ募る和紙の里             中村 迷哲

水澄むやダムの底には古き村             星川 水兎

「当季雑詠」

秋灯下挑む古城は一〇〇〇ピース           廣田 可升

しっぽ立て迎える猫のいない秋            斉山 満智

故郷へ喪服いくたび流れ星              廣田 可升

秋冷や夕闇まとふ杉の玉               玉田春陽子

《参加者》【出席7人】大澤水牛、金田青水、須藤光迷、玉田春陽子、中村迷哲、廣田可升、向井愉里。【投句参加10人】嵐田双歩、池内的中、斉山満智、澤井二堂、高井百子、堤てる夫、徳永木葉、星川水兎、前島幻水、山口斗詩子。

(報告 大澤水牛)

 

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日経俳句会第242回例会

女性3人が上位を独占

首位16点に千虎句「夜の森」、二席に十三妹句、三席道子句

日経俳句会は令和7年9月例会(通算242回)を9月21日(日)午後2時から鎌倉橋の千代田区立スポーツセンター和室で開いた。秋らしい陽気になり所用のある人が多かったのか、出席者は9人にとどまったが、徳永木葉さんと中沢豆乳さんが久しぶりに顔を見せ、にぎやかな句会となった。兼題は「秋の水」と「茸」。37人から111句の投句があり、6句選(欠席は5句)の結果、岩田千虎さんの「夜の森きのこ宇宙と交信す」が16点を得て断トツの首位。二席には藤野十三妹さんの「わが老いをさらりと映す秋の水」が12点で続き、三席は久保道子さんの「つるされて五線譜のようあんぽ柿」の11点句。上位3人を女性が占め、いずれも二桁得点というめったにない〝快挙〟となった。このほか7点句に伊藤健史さんの「いきものは小声となりぬ秋の水」と久保道子さんの「うつる空両手ですくう秋の水」が並び、久保さんは投句3句がすべて高点句となった。以下、5点2句、4点7句、3点4句、2点14句、1点29句と、上位句に点が集中した形となった。兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「秋の水」

わが老いをさらりと映す秋の水           藤野十三妹

いきものは小声となりぬ秋の水           伊藤 健史

うつる空両手ですくう秋の水            久保 道子

哲学の道に沿ひゆく秋の水             中村 迷哲

執着を流していくや秋の水             中嶋 阿猿

龍神に翳す手のひら秋の水             篠田  朗

秋の水供え遺影に独り言              徳永 木葉

奥入瀬や鏡となりし秋の水             坂部富士子

小魚の輪舞透けたり秋の水             杉山 三薬

「茸」

夜の森きのこ宇宙と交信す             岩田 千虎

舞茸の在り処語らず爺逝けり            廣上 正市

親子連れ図鑑片手の茸狩り             加藤 明生

とりどりに森の香まとい茸汁            和泉田 守

毒キノコ傘艶やかに誘ひ来る            久保田 操

茸採り熊は出ぬかと気もそぞろ           徳永 木葉

きのこじるしいたけえのきぶなしめじ        久保 道子

 

当季雑詠

つるされて五線譜のようあんぽ柿          久保 道子

サラリーマン辞めて十年秋日和           岩田 千虎

着信の履歴消せずに秋彼岸             植村 方円

あるじなき庭にすゝきと思い草           工藤 静舟

葬列に声をかぎりの法師蝉             中沢 豆乳

登高や黄金に染まる甲斐の里            溝口戸無広

《参加者》【出席9人】嵐田双歩、大澤水牛、金田青水、篠田朗、杉山三薬、徳永木葉、中沢豆乳、中村迷哲、溝口戸無広。【投句参加28人】池村実千代、和泉田守、伊藤誠一、伊藤健史、岩田千虎、植村方円、大沢反平、岡田鷹洋、岡松卓也、加藤明生、工藤静舟、久保道子、久保田操、坂部富士子、澤井二堂、須藤光迷、高井百子、高橋ヲブラダ、堤てる夫、中嶋阿猿、中野枕流、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、星川水兎、水口弥生、向井愉里、横井定利。

(報告 中村迷哲)

 

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酔吟会第176回例会

10人が参加、「新米」「無」を詠む

首位7点に木葉句と春陽子句、二席双歩句、三席に千虎句

酔吟会は令和7年9月例会(通算第176回)を13日(土)午後1時から江東区の古石場文化センターで開催した。兼題は「新米」、杉山三薬さんから出題された席題は「無」。雑詠を含め投句5句、選句6句(うち特選1句)の結果、首位7点句に玉田春陽子さんの「字余りのような八十過ぎの秋」と徳永木葉さんの「病める眼を色無き風にさらしたり」が並び、二席5点句には嵐田双歩さんの「秋彼岸いつまで回る室外機」が選ばれた。三席4点句には岩田千虎さんの「することも無き一日や秋の雲」と徳永木葉さんの「新米や通夜の厨の塩むすび」が続き、3点句には嵐田双歩さんの「今年米少し離れて備蓄米」が入った。いつもの句会では3点句が多く出るのに、今回は1句のみという珍現象となった。

この日は猛暑が一段落したやや過ごしやすい気候で、会場が初めて使用する古石場文化センターということもあり、少し早めに門前仲町駅前に集合し、深川不動堂、富岡八幡宮、親水公園、文化センター内の小津安二郎展示コーナーを巡る、ミニ吟行のような句会となった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「新米」

新米や通夜の厨の塩むすび             徳永 木葉

今年米少し離れて備蓄米              嵐田 双歩

「無」

病める眼を色無き風にさらしたり          徳永 木葉

することも無き一日や秋の雲            岩田 千虎

当季雑詠

字余りのような八十過ぎの秋            玉田春陽子

秋彼岸いつまで回る室外機             嵐田 双歩

《句会参加者10人》嵐田双歩、岩田千虎、大澤水牛、岡田鷹洋、金田青水、杉山三薬、須藤光迷、玉田春陽子、徳永木葉、廣田可升。

(報告 廣田可升)

 

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番町喜楽会第231回例会

天の6点に青水・可升・愉里、地は3点で6句がひしめく

14人参加「白露」と「蚯蚓鳴く」を詠む

9月に入ったものの気温36度を超える猛暑日、番町喜楽会は令和7年9月例会(通算第231回)を、1日午後6時半から東京・九段下の千代田区生涯学習館で開催した。兼題は「白露」と「蚯蚓鳴く」。句会には8人が参加、選句6句(欠席者は5句)の結果、天は6点で金田青水さんの「補聴器を外し蚯蚓の鳴く闇へ」、廣田可升さんの「晩年の始まりはどこ野分雲」、向井愉里さんの「稔り田と刈田を縫って久留里線」が並んだ。5点句、4点句がなく地は3点となり、そこに6句がひしめくという、真に珍しい結果になった。地に轡を並べたのは、大澤水牛さんの「船徳利かたへに蚯蚓鳴くを待つ」、斉山満智さんの「薬膳の湯気香ばしく白露かな」、須藤光迷さんの「かなかなの木立を透かし届きけり」と「タクシーの呼び方知らず秋暑し」、中村迷哲さんの「茶室には洗心の二字白露の日」、廣田可升さんの「天神の撫で牛光る白露かな」。連日の猛暑・酷暑にもかかわらず、14人から68句の投句があり、選句では2点6句、1点25句という具合に今回もまた票が割れた。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「白露」

薬膳の湯気香ばしく白露かな            斉山 満智

茶室には洗心の二字白露の日            中村 迷哲

天神の撫で牛光る白露かな             廣田 可升

「蚯蚓鳴く」

補聴器を外し蚯蚓の鳴く闇へ            金田 青水

船徳利かたへに蚯蚓鳴くを待つ           大澤 水牛

「当季雑詠」

晩年の始まりはどこ野分雲             廣田 可升

稔り田と刈田を縫って久留里線           向井 愉里

かなかなの木立を透かし届きけり          須藤 光迷

タクシーの呼び方知らず秋暑し           須藤 光迷

【句会出席8人】大澤水牛、金田青水、須藤光迷、玉田春陽子、中村迷哲、廣田可升、星川水兎、向井愉里。【投句参加6人】嵐田双歩、斉山満智、澤井二堂、高井百子、徳永木葉、前島幻水。

(報告 須藤光迷)

 

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日経俳句会第241回例会

参加37人、「天の川」と「秋刀魚」を詠む

首位8点に鷹洋句「線香花火」、二席6点は百子句「星一つ」

日経俳句会は8月20日(水)夕、令和7年8月例会(通算241回)を鎌倉橋の日経広告研究所会議室で開いた。旧盆過ぎても猛暑は収まらず、残暑というより盛夏がいつまでも続いているような毎日。その暑さにめげず、会場に足を運んだ熱心なメンバーのクールな発言が座を沸かせた。兼題は「天の川」と「秋刀魚」。37人から110句の投句があり、6句選(欠席は5句)の結果、岡田鷹洋さんの「線香花火妻と長生き競ひをり」が8点で一席に。次いで高井百子さんの「友逝くや星ひとつ増え天の川」が6点で二席。三席には杉山三薬さんの「連れションの首は上向く天の川」、岡松卓也さんの「ぜいたくをコメと秋刀魚で噛みしめる」、金田青水さんの「一尾づつ経木の舟に新秋刀魚」、伊藤健史さんの「盆踊り五十年前ここにゐた」、中沢豆乳さんの「喜寿傘寿口紅濃くして盆踊」が5点で並んだ。以下4点9句、3点12句、2点26句、1点23句と点が分散した。兼題別の高点句(3点以上)は以下の通り。

「天の川」

友逝くや星ひとつ増え天の川             高井 百子

連れションの首は上向く天の川            杉山 三薬

苦悶する地球ながむる天の川             金田 青水

楼蘭を過ぎしキャラバン天の川            中村 迷哲

御巣鷹のふもと灯ろう天の川             旙山 芳之

織姫が溺れたってさ天の川              伊藤 誠一

大銀河モンゴルの宙沈黙す              工藤 静舟

かずら橋架けて渡らん天の川             徳永 木葉

また一年生き長らへて天の川             中嶋 阿猿

天の川またぞろ空振り夜回り             廣上 正市

鎮魂の海行く船や天の川               溝口戸無広

「秋刀魚」

ぜいたくをコメと秋刀魚で噛みしめる         岡松 卓也

一尾づつ経木の舟に新秋刀魚             金田 青水

秋刀魚焼く煙の向こう昭和かな            岩田 千虎

後手後手のコメ増産や秋刀魚焼く           須藤 光迷

寒流の海の青さや新秋刀魚              中村 迷哲

秋刀魚焼く団扇代りの株新聞             横井 定利

尾頭が皿に収まる痩せ秋刀魚             篠田  朗

当季雑詠

線香花火妻と長生き競ひをり             岡田 鷹洋

盆踊り五十年前ここにゐた              伊藤 健史

喜寿傘寿口紅濃くして盆踊り             中沢 豆乳

縦横に空はカンバス群とんぼ             和泉田 守

滴るる桃のしずくよ敗戦忌              大澤 水牛

終戦日ガザには飢えし子が眠る            岩田 千虎

大声で帰り知らせる滝遊び              植村 方円

ポンポンと西瓜を叩くお坊さん            加藤 明生

トランプに小突かるるまゝ秋に入る          金田 青水

秋暑し古美術商の長ばなし              中嶋 阿猿

《参加者》【出席11人】嵐田双歩、植村方円、大澤水牛、金田青水、坂部富士子、篠田朗、杉山三薬、中野枕流、中村迷哲、溝口戸無広、星川水兎。【投句参加26人】池村実千代、和泉田守、伊藤誠一、伊藤健史、岩田千虎、大沢反平、岡田鷹洋、岡松卓也、加藤明生、工藤静舟、久保道子、久保田操、澤井二堂、須藤光迷、高井百子、高橋ヲブラダ、堤てる夫、徳永木葉、中沢豆乳、中嶋阿猿、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、水口弥生、向井愉里、横井定利。

(報告 嵐田双歩)

 

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番町喜楽会第230回例会

 

16人参加、「原爆忌」と「萩」を詠む

「天」に木葉「地」に迷哲、「人」に3人

番町喜楽会は令和7年8月2日(土)午後6時、東京・九段下の千代田区生涯学習館で第230回例会を開催した。場所によっては40度を超す狂ったような猛暑日続きで、会員の中には体調を崩す人も出て、出席者は7人に止まり、9名が投句参加となった。今回の兼題は「原爆忌」と「萩」。16人から78句の投句があり、6句選(欠席者は5句)で選句を進めた結果、「天」の位は6点で徳永木葉さんの「黙のまま資料館出づ広島忌」。「地」5点は中村迷哲さんの「兄弟の寝姿似たる夏座敷」、「人」の4点は堤てる夫さんの「姥捨の棚田守るや萩の花」と須藤光迷さんの「終戦日外地に眠る叔父ふたり」、嵐田双歩さんの「めて日傘ゆんで携帯扇風機」の3句が並んだ。以下3点が9句、2点8句、1点21句といつもと同じように票が分散した。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「原爆忌」

黙のまま資料館出づ広島忌              徳永 木葉

電停に祈る人あり原爆忌               中村 迷哲

自販機の水は売切れ原爆忌              嵐田 双歩

必要な犠牲などない原爆忌              斉山 満智

サイレンの響く球場原爆忌              星川 水兎

「萩」

姥捨の棚田守るや萩の花               堤 てる夫

白萩の乱れて隠る芭蕉句碑              廣田 可升

惜しみつつ萩のトンネル抜けにけり          星川 水兎

「当季雑詠」

兄弟の寝姿似たる夏座敷               中村 迷哲

終戦日外地に眠る叔父ふたり             須藤 光迷

めて日傘ゆんで携帯扇風機              嵐田 双歩

塗り直す横断歩道土用照り              玉田春陽子

夏の果プールの底のイヤリング            玉田春陽子

水桶に烏飛び込む大暑かな              大澤 水牛

《参加者》【出席7人】大澤水牛、金田青水、須藤光迷、玉田春陽子、中村迷哲、廣田可升、向井愉里。【投句参加9人】嵐田双歩、斉山満智、澤井二堂、高井百子、堤てる夫、徳永木葉、星川水兎、前島幻水、山口斗詩子。

(報告 大澤水牛)

 

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日経俳句会第240回例会

豆乳句「広島忌」が最高9点、二席8点は正市句「妻の部屋」

「夜の秋」と「ヨット」を詠む

日経俳句会は7月20日(日)、令和7年の7月例会(通算240回)を午後2時から鎌倉橋の千代田区立スポーツセンター集会室で開いた。この日は参議院議員選挙の投票日とあって、不在者投票を終えた人や出がけに済ませた人など9人が出席。少人数ながら活発な意見が飛び交う中身の濃い句会となった。「夜の秋」と「ヨット」の兼題に、37人から111句の投句があり、6句選(欠席は5句)の結果、中沢豆乳さんの「鶴を折る小さき手老いた手広島忌」が9点で一席。二席には廣上正市さんの「妻の部屋ありし日のまま夜の秋」が8点で続いた。次いで三席には須藤光迷さんの「月山を腰掛にして雲の峰」と徳永木葉さんの「爪を切る音の乾きや夜の秋」が7点で並んだ。以下6点5句、5点4句、4点6句、3点9句、2点14句、1点24句と、特定の句に票が集まった。兼題別の高点句(三点以上)は以下の通り。

「夜の秋」

妻の部屋ありし日のまま夜の秋          廣上 正市

爪を切る音の乾きや夜の秋            徳永 木葉

湯けむりを風がさらひて夜の秋          高橋ヲブラダ

大ぶりのぐい呑み出して夜の秋          向井 愉里

小屋はねて浜町河岸に夜の秋           杉山 三薬

瓶底に残るバーボン夜の秋            嵐田 双歩

書き込みし我が文字読めず夜の秋         和泉田 守

ガラガラの映画館出て夜の秋           中嶋 阿猿

夜の秋汽車の奏でる四拍子            伊藤 健史

夜の秋熱めの煎茶父の掌に            水口 弥生

「ヨット」

帰還するヨツトを囃す鷗かな           溝口戸無広

鼻剝けの子らが支へるヨットの帆         金田 青水

見はるかすヨット幾艘比叡山           高井 百子

海燃えて黒きヨットの一つあり          星川 水兎

ヨット乗せ新入部員は台車押す          嵐田 啓明

渋滞の窓にちらつくヨット群           中嶋 阿猿

当季雑詠

鶴を折る小さき手老いた手広島忌         中沢 豆乳

月山を腰掛にして雲の峰             須藤 光迷

生ビール交わす手と手の手話踊る         伊藤 誠一

派手かなと取っては戻し初日傘          中野 枕流

曝書してぱらり一葉諭吉翁            金田 青水

笑点見て笑い転げる妻の夏            工藤 静舟

山百合に出くわす道のくねりたる         向井 愉里

子と風呂で遊んだ記憶浮いて来い         嵐田 双歩

目が覚めるもう疲れてる蟻地獄          和泉田 守

夏菊が一生懸命咲いてゐる            大沢 反平

旧友の打明け話梅雨の雷             徳永 木葉

苗選ぶトマトは愛子と桃太郎           廣上 正市

《参加者》【出席9人】嵐田双歩、岩田千虎、植村方円、大澤水牛、金田青水、篠田朗、杉山三薬、徳永木葉、向井愉里。【投句参加28人】池村実千代、和泉田守、伊藤誠一、伊藤健史、大沢反平、岡田鷹洋、岡松卓也、加藤明生、工藤静舟、久保道子、久保田操、坂部富士子、澤井二堂、須藤光迷、高井百子、高橋ヲブラダ、堤てる夫、中沢豆乳、中嶋阿猿、中野枕流、中村迷哲、旙山芳之、廣上正市、藤野十三妹、星川水兎、溝口戸無広、水口弥生、横井定利。

(報告 嵐田双歩)

 

 

 

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酔吟会第175回例会

11人出席「夕焼」「盆」を詠む

首位8点に水牛「水撒けば」、次席5点春陽子「クリオネ」、4点に4句続々

酔吟会は令和7年の7月例会(通算第175回)を12日午後1時から江東区の芭蕉記念館で開催した。兼題は「夕焼」、向井愉里さんから出題された席題は「盆」。雑詠を含め投句5句、選句6句(うち特選1句)の結果、首位の8点句に大澤水牛さんの「水撒けばごくろうさんと夕立来る」、次点の5点句には玉田春陽子さんの「クリオネを見ると約束盆休み」、4点句に嵐田双歩さんの「夕焼けて妻はいまだに帰らない」、岡田鷹洋さんの「単衣帯きりりと決めて環の中へ」、廣田可升さんの「スクワットで始める稽古盆踊」および「淺草に市立つ朝や藍浴衣」の4句が選ばれた。連日の猛暑が一服して、やや過ごしやすい午後のひと時を、にぎやかな句会で楽しんだ。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「夕焼」

夕焼けて妻はいまだに帰らない       嵐田 双歩

夕焼へ下り快速まっしぐら         杉山 三薬

べそかいて下校する子や大夕焼       廣田 可升

「盆」

クリオネを見ると約束盆休み        玉田春陽子

スクワットで始める稽古盆踊        廣田 可升

真鍮の仏具磨くも盆用意          嵐田 双歩

「当季雑詠」

水撒けばごくろうさんと夕立来る      大澤 水牛

単衣帯きりりと決めて環の中へ       岡田 鷹洋

淺草に市立つ朝や藍浴衣          廣田 可升

竹籠にオクラピーマン茄子トマト      向井 愉里

<句会参加者11人>

嵐田双歩、大澤水牛、岡田鷹洋、金田青水、久保道子、杉山三薬、須藤光迷、玉田春陽子、徳永木葉、廣田可升、向井愉里。 (報告 廣田可升)

 

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