酔吟会第97回例会開催

酔吟会の平成24年度第2回例会(通算97回)が、3月10日(土)午後1時から鎌倉橋交差点そばの日経第2別館で開かれた。

春は名のみの雨模様の寒い日であったこともあり、出席者は12人と少なく、投句参加者が5人になった。

出席者は今泉恂之介、大澤水牛、大沢反平、岡田臣弘、片野涸魚、金指正風、黒須烏幸、澤井二堂、堤てる夫、徳永正裕、藤村詠悟、吉野光久の各氏。投句参加は原文鶴、大石拍人、野田冷峰、藤野十三妹、星川佳子の5氏。

兼題は「春風」と「蛤」、投句は5句、選句7句で句会を行った。その結果、最高点は5点で「春風に柾目の下駄をおろしけり 柏人」の1句だった。次いで4点が4句、3点が4句、2点句が15句、1点句が20句と分散した。兼題別の3点以上獲得句は次の通り。

 

「春風」

春風に柾目の下駄をおろしけり    大石 拍人

春風や花になる芽と葉になる芽    大澤 水牛

春風や回らぬ舌の満二歳       徳永 正裕

 

「蛤」

大蛤の殻捨てがたし祝膳       徳永 正裕

はまぐりの値を聞いてゐるお婆さん  今泉恂之介

江の島ははまぐり汁の薄ぐもり    今泉恂之介

蛤鍋の湯気の香に沁む送別会     星川 佳子

 

「雑詠」

閏日やおまけのやうな雪が降る    金指 正風

飾り馬車春の駅より大使出づ     徳永 正裕

(まとめ澤井二堂)

 

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番町喜楽会第78回例会

番町喜楽会は3月5日(月)午後6時半から千代田区九段下の九段生涯学習会館3階学習室で、平成24年度第3回例会(通算78回)を開いた。梅の開花が遅れ気味の中、「東風(こち)」と「地虫穴を出づ(じむしあなをいづ)」がこの日の兼題。投句と選句表の事前配布方式にも慣れてきて、6句選句の披講が円滑に進んだ。投句数94句のうち最高点は高橋楓子さんの「亜麻色に髪染めてみむ雲雀東風」の6点句。次席は4点で3句あり、笹本塘外さんの「自動ドア開けばたちまち東風の街」、高井百子さんの「しくしくと疼く奥歯よ地虫出づ」、徳永正裕さんの「あるじなき娘の部屋の雛飾り」が並んだ。次いで3点句は10句がひしめいた。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

 

「東風」

亜麻色に髪染めてみむ雲雀東風        高橋 楓子

自動ドア開けばたちまち東風の街       笹本 塘外

東風の香や出稼ぎの父帰るころ        今泉 而雲

梅東風の今年は遅し港町           大澤 水牛

朝の東風絵馬の三千打ち鳴らす        玉田春陽子

夕東風や遠き岬に灯の点る          前島 巌水

 

「地虫穴を出づ」

しくしくと疼く奥歯よ地虫出づ        高井 百子

穴出でてふともの思ふ地虫かな        笹本 塘外

穴を出て蜥蜴まどろむ石の上         須藤 光迷

くしゃみする犬の鼻先地虫出づ        高橋 楓子

 

「雑詠」

あるじなき娘の部屋の雛飾り         徳永 正裕

肌寒といえど祝ぎ春ショール         岩沢 克恵

啓蟄や鼻毛を切つて家を出る         加沼 鬼一

カピバラの髭に湯の花春遅し         谷川 水馬

 

参加者(出席)井上啓一、今泉而雲、大澤水牛、笹本塘外、須藤光迷、高瀬大虫、高橋楓子、谷川水馬、玉田春陽子、堤てる夫、徳永正裕、野田冷峰、星川佳子、前島巌水、三好六甫(投句参加)岩沢克恵、加沼鬼一、高井百子、山口詩朗 (まとめ 堤てる夫)

 

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第106回水木会例会

日経俳句会の水木会は2月15日(水)午後6時半から、東京・大手町の日経本社17階会議室で、平成24年度第2回例会(通算106回)を開いた。「春暁(しゅんぎょう)」と「パンジー」の兼題句を含めて5句投句、6句選句を事前に済ませるメール活用方式で実施した。

投句総数は149句で、水木会の例会としては過去最多を記録。欠席者のメール選句が拡がって出席者と合わせ都合28人が選句に参加した。故郷の新潟県弥彦村で米作に専念して来た小林豊彦さんが平成18年以来の復活投句で句会再登場を果たした。

最高は6点2句で、いずれも佐々木碩さんの「春暁や子馬誕生立ちあがる」と「パンジーやみんな先生大好きで」。次席5点は今村聖子さんの「パンジーやフランス窓を開け放ち」の1句。続く4点句は、「春暁や眠りこけたる鳩時計 大熊万歩」「春暁の座禅堂にて肩打たる 徳永正裕」「月光に匂ひあるらし春の宵 星川佳子」「パンジーを二鉢提げてバスの客 吉野光久」「浮くとなく流るるとなく春鴎 光久」の5句。以下3点11句、2点24句、1点41句。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「春暁」

春暁や子馬誕生立ちあがる        佐々木 碩

春暁や眠りこけたる鳩時計        大熊 万歩

春暁の座禅堂にて肩打たる        徳永 正裕

春暁のしづかな雨に目覚めけり      今村 聖子

春暁の鐘打つ僧の反り身かな       廣上 正市

春暁やブンと鳴り出す冷蔵庫       星川 佳子

春暁や波止場に残るテープ屑       山口 詩朗

春暁や横町の匂ひ始まりぬ        横井 定利

「パンジー」

パンジーやみんな先生大好きで      佐々木 碩

パンジーやフランス窓を開け放ち     今村 聖子

パンジーを二鉢提げてバスの客      吉野 光久

パンジーのほんの少しの匂ひかな     池村実千代

職退きてパンジーを見る朝となり     今泉恂之介

パンジーが四方八方向く日向       杉山 智宥

「雑詠」

月光に匂ひあるらし春の宵        星川 佳子

浮くとなく流るるとなく春鴎       吉野 光久

白き田に我が影伸びる寒の暮       小林 豊彦

梅の香や江ノ電停まる駅ごとに      山口 詩朗

忘れたい忘れたくない春が来た      横井 定利

 

参加者(出席) 嵐田啓明、池村実千代、今泉恂之介、植村博明、大澤水牛、佐々木碩、澤井二堂、杉山智宥、須藤光迷、高石昌魚、堤てる夫、徳永正裕、広上正市、藤野十三妹、星川佳子、水口弥生、横井定利(投句・選句)今村聖子、大熊万歩、大下綾子、大平睦子、金田青水、久保田操、高橋淳、直井正、山口詩朗、山田明美、吉野光久(投句参加)小林啓子、小林豊彦、深田森太郎

(まとめ・堤てる夫)

 

 

 

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銀鴎会第80回例会

銀鴎会は2月8日(水)、日経本社718会議室で平成24年度第1回例会(通算80回)を開催した。この会から欠席投句者も選句に参加する方式がスタートし、2名がメールで参加した。

出席者は井上庄一郎、今泉恂之介、大倉悌志郎、大澤水牛、大沢反平、佐々木碩、澤井二堂、鈴木好夫、高石昌魚、高瀬大虫、直井正、廣上正市の12名。投句参加は金田青水、須藤光迷、田中頼子、野田冷峰、藤野十三妹、山口詩朗の6名で、総投句数は88句。選句6句で句会を進めた(金田、須藤両氏からメール選句あり)。

最高点は大沢反平さんの「行く末の見えざる日々や建国日」の8点、次いで澤井二堂さんの「地面から飛び出す色やクロッカス」、金田青水さんの「検診のあとは鶯餅ひとつ」など4点句が3句続いた。3点句は山口詩朗さんの「千代紙で箸置つくる紀元節」、大倉悌志郎さんの「クロッカスともに植ゑし子はや十五」など九句も出た。このほか、2点5句、1点が24句あった。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

「紀元節(建国日)」

行く末の見えざる日々や建国日    大沢 反平

千代紙で箸置きつくる紀元節     山口 詩朗

建国日乳房大きな土偶たちと     山口 詩朗

「クロッカス」

地面から飛び出す色やクロッカス   澤井 二堂

芝庭に色生れにけりクロッカス    今泉恂之介

小庭にも青空のありクロッカス    今泉恂之介

クロッカスともに植ゑし子はや十五  大倉悌志郎

不合格の子にはやさしきクロッカス  大澤 水牛

咲き継ぎて家族のやうにクロッカス  佐々木 碩

卓上にワイングラスやクロッカス   直井  正

クロッカス森の小人の集ひかな    直井  正

「雑詠」

検診のあとは鶯餅ひとつ       金田 青水

如月の淋しさ犬の腹撫でて      山口 詩朗

 

 

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番町喜楽会第77回例会

番町喜楽会は立春の日の2月4日(土)午後1時から千代田区二番町・番町ハイム会議室で平成24年度第2回例会(通算77回)を開いた。定刻に18人が勢揃いして、小さい会議室は満杯。兼題は「白魚」「二月」で、投句参加2人を含め投句総数は100句。A4サイズの選句表が3枚にわたり、これを前に6句選句の披講が進んだ。

その結果、最高の8点を集めたのは大澤水牛さんの「頼りなきひとと思へど白魚鍋」の1句。次席7点は星川佳子さんの「しらうをのうすうすと影重なれり」の1句。3席5点は2句、今泉而雲さんの「白魚や命のありて透き通る」と須藤光迷さんの「爪を切る響きも硬き二月なり」が並んだ。

続く4点は、「巨船発ちて埠頭の残る二月かな 而雲」「灯ともせば一輪咲きぬ冬の梅 笹本塘外」「冬の日の只中にあり大鳥居 塘外」「冬厳し僧のとぎれぬ長廊下 佳子」と4句。3点句は5句で、自宅療養中の山口詩朗さんが「二の替えの果てて小雨の浅草寺」と外出気分を詠み込んだ1句が入った。

兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

 

「白魚」

頼りなきひとと思へど白魚鍋       大澤 水牛

しらうをのうすうすと影重なれり     星川 佳子

白魚や命のありて透き通る        今泉 而雲

 

「二月」

巨船発ちて埠頭の残る二月かな      今泉 而雲

爪を切る響きも硬き二月なり       須藤 光迷

琴の音の今日は聞こえる二月かな     今泉 而雲

桑畑赤城おろしの二月かな        高井 百子

二ん月や閉店ビラの薄ぼこり       玉田春陽子

あけがたに腓の返る二月かな       三好 六甫

 

「雑詠」

灯ともせば一輪咲きぬ冬の梅       笹本 塘外

冬の日の只中にあり大鳥居        笹本 塘外

冬厳し僧のとぎれぬ長廊下        星川 佳子

二の替えの果てて小雨の浅草寺      山口 詩朗

参加者(出席)井上啓一、今泉而雲、岩沢克恵、大澤水牛、加沼鬼一、笹本塘外、須藤光迷、高井百子、高瀬大虫、高橋楓子、谷川透、玉田春陽子、堤てる夫、徳永正裕、野見山恵子、星川佳子、前島巌水、三好六甫(投句参加)野田冷峰、山口詩朗

(まとめ・堤てる夫)

 

 

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水木会第105回例会

日経俳句会水木会は1月18日(水)午後6時半、日経本社7階会議室で平成24年初句会(通算105回)を開催した。出席者は18人、投句参加者が11人で投句総数は139句と正月らしい賑わい。兼題は「初刷」「水仙」、投句5句以内、8句選で句会を進めた結果、最高の6点を得たのは山口詩朗さんの「待つことになれし病廊黄水仙」の一句。昨年来、臥せっている詩朗さんには何よりの「句会速報」になった。

次席は5点句で、嵐田啓明さんの「年寄りのがやがやと来て笑初」と、星川佳子さんの「初刷のきゅうくつさうな二つ折」の2句。次いで4点句が5句、「初刷やマウスでめくる電子版 啓明」、「断崖や水仙なりの土性骨 植村博明」、「紺碧の海へなだるる野水仙 大澤水牛」、「松とれて古き蕎麦屋に水仙花 水口弥生」、「異国語の絵馬のかずかず初社 吉野光久」と並んだ。以下3点8句、2点19句、1点46句。兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

 

「初刷」

初刷のきゅうくつさうな二つ折     星川 佳子

初刷やマウスでめくる電子版      嵐田 啓明

初刷りの佳き事多き重さかな      大熊 万歩

初刷の龍の目玉はやさしかり      大澤 水牛

キヨスクに立ちし柱や初新聞      徳永 正裕

 

「水仙」

断崖や水仙なりの土性骨        植村 博明

紺碧の海へなだるる野水仙       大澤 水牛

松とれて古き蕎麦屋に水仙花      水口 弥生

水仙の香り賑やか寛永寺        池村実千代

灯台へ続く轍や水仙花         今村 聖子

水仙の健気に背筋伸ばしをり      金田 青水

水仙花伊豆の干物の匂ひ連れ      杉山 智宥

回廊の曲がりを飾る野水仙       高石 昌魚

 

「雑詠」

待つことになれし病廊黄水仙      山口 詩朗

年寄りのがやがやと来て笑初      嵐田 啓明

異国語の絵馬のかずかず初社      吉野 光久

 

参加者(出席)池村実千代、今泉恂之介、大熊万歩、大澤水牛、大平睦子、植村博明、小林啓子、佐々木碩、澤井二堂、杉山智宥、須藤光迷、高石昌魚、堤てる夫、徳永正裕、廣上正市、星川佳子、横井定利、吉野光久(投句参加)嵐田啓明、今村聖子、大下綾子、金田青水、久保田操、高橋淳、直井正、藤野十三妹、水口弥生、山田明美、山口詩朗

(まとめ・堤てる夫)

 

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酔吟会第96回例会

平成24年の第1回(通算96回)句会は1月14日(土)午後1時から、鎌倉橋交差点そばの日経第二別館会議室で開かれた。首都圏は師走から雨がなく乾燥した晴天が続き、この日も晴れた。しかし日中もかなり冷え込んだせいか出席者は12人といつもより少なかった。出席者は大澤水牛、大沢反平、岡田臣弘、金指正風、片野涸魚、黒須烏幸、澤井二堂、堤てる夫、徳永正裕、藤村詠悟、星川佳子、吉野光久。投句参加は今泉恂之介、田村舟平、藤野十三妹、山口詩朗の四氏。

兼題は「初夢」「日脚伸ぶ」で5句投句。出席者による7句選句で句会を行った。その結果、最高点句は4点で「会ひたくもなき顔もゐて夢始め 光久」「吹きすさぶ空に冬芽のまぎれなく 同」「乳母車のよくうごく足日脚伸ぶ 佳子」「初夢や樹木に生れ変りをり 同」の4句、ついで3点8句、2点7句、1点30句と互選の点がいささかばらけた。兼題別の3点句以上は次の通り。

「初夢」

初夢や樹木に生まれ変りをり          星川 佳子

会ひたくもなき顔もゐて夢始          吉野 光久

初夢を何か見たよな見ぬような         澤井 二堂

初夢は妻を見染めし学食堂           岡田 臣弘

初夢の母模糊として笑ふかな          山口 詩朗

初夢やたどり着けないドアの先         星川 佳子

「日脚伸ぶ」

乳母車のよくうごく足日脚伸ぶ         星川 佳子

日脚伸ぶ語尾を引きずる娘たち         大澤 水牛

草臥れし靴を新調日脚伸ぶ           堤 てる夫

「雑詠」

吹きすさぶ空に冬芽のまぎれなく        吉野 光久

事多き年を記して日記閉ず           金指 正風

しばるるや仮設住ひの職捜し          金指 正風

(吉野光久・記)

 

 

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第76回番町喜楽会例会

番町喜楽会は1月9日(祭日)午後6時半から千代田区立九段生涯学習館の4階集会室で、平成24年度の初例会(通算76回)を開いた。出席者は久方ぶりに姿を見せた加沼鬼一はじめ16人、それに投句参加4人と賑やかに新年の幕開けをした。兼題は「去年(こぞ、去年今年も可)」と「焚火(たきび)」で、事前に雑詠を含めて5句投句。事前作成の投句一覧表をもとに選句6句の披講に入り、スピーディーに進んだ。

その結果、最高の6点を得たのは山口詩朗さんの「ガラス戸に初春の子の手形あり」と「塩辛の味整ひぬ寒の入り」の2句。年末入院という憂き目の詩朗さんにはまさに「両手に花」の結果だった。句会当日朝には幹事に選句結果を電話連絡してきたそうで、病床の熱意が句会に伝わってきた。次席は4点で「泰然と高野槇立つ去年今年 高井百子」「去年今年ざくり頭(かうべ)の手術痕 堤てる夫」「蓮根のどの穴となく去年今年 野見山恵子」の3句。以下3点句が6句続いた。

兼題別の高点句(3点以上)は次の通り。

 

「去年(こぞ、去年今年)」

泰然と高野槇立つ去年今年         高井 百子

去年今年ざくり頭(かうべ)の手術痕    堤 てる夫

蓮根のどの穴となく去年今年        野見山恵子

開運といふ酒酌みて去年今年        大澤 水牛

我が性根鏡に問ふや去年今年        玉田春陽子

 

「焚火(たきび)」

火を焚くや赤尾の豆単めくれをり      井上 啓一

大海に朝月残す磯焚火           岩沢 克恵

夜焚火や原人そばにゐるような       徳永 正裕

用なき身と思へば焚火なほ親し       野見山恵子

 

「雑詠」

ガラス戸に初春の子の手形あり       山口 詩朗

塩辛の味整ひぬ寒の入り          山口 詩朗

 

参加者(出席)井上啓一、今泉而雲、大澤水牛、加沼鬼一、笹本塘外、須藤光迷、高井百子、高瀬大虫、谷川透、玉田春陽子、堤てる夫、徳永正裕、野田冷峰、星川佳子、前島巌水(投句参加)岩沢克恵、野見山恵子、三好六甫、山口詩朗(選句参加)高橋楓子、山口詩朗

(まとめ・堤てる夫)

 

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新年二宮吾妻山・六所神社吟行

1月3日、日経俳句会と番町喜楽会有志による二宮大磯吟行を行った。二宮は平安時代に相模国の国府が置かれたところで、現在の神奈川県の横浜を除く一帯相模国の中心地だった。相模一宮の寒川神社をはじめ相模国の代表的な神社六つを束ねたのが六所神社で、ここに祀られていた祭神櫛名田姫(稲田姫)とその夫であるスサノオノミコトの神像がこの日だけご開帳になるというので、堤てる夫幹事が急遽メールで呼びかけ、初詣吟行が実現した。

さすがに三が日は動けないという人が多く、当日正午に東海道線二宮駅に参集したのは堤てる夫、夫人の高井百子、岡田臣弘、須藤光迷、廣上正市、大澤水牛、大下綾子と特別参加の綾子さんの夫君大下慶太郎の8人だった。

まず二宮駅裏手の吾妻山に登る。海抜150mほどしかないのだが海岸からいきなり立ち上がっているからかなり急な石段が300段ほど続き、さらに急坂を上って頂上に立つと、大榎が一本葉を落とした枝をすっくと青空にかざしていた。足元には早咲きの菜の花がまさに満開。右手東北方に大山、丹沢山塊、前方に富士山、その手前に箱根山、さらに左へ視線をずらすと真鶴半島とその向こうに伊豆半島、その先に大島。手前足元から相模灘が開け、左前方に三浦半島、その先に房総半島がくっきり見える。正月晴れの下の360度のパノラマは筆舌を尽くしがたい絶景だった。一同眺めを楽しみながら持ち寄った弁当を広げ、てる夫さんが背負ってきた銘酒一升をたちまち平らげた。

ゆっくりと山を下り、二宮駅前からバスで六所神社へ向かう。さすがにこの辺の代表的神社だから数百人の初詣客が長い列を作っていた。クシナダヒメとスサノオの神像は高さ7、80センチの木像で両手がもげてしまっていたが、とても威厳のあるいい作品だった。奈良から平安にかけて広まった本地垂迹説に従って日本固有の神様もこうした木像に彫られて各地の神社にかざられた。しかし明治維新の廃仏毀釈運動の際に、尊い神を仏像まがいのものにするなどもってのほかと、片端から壊され焼かれてしまった。当時のここの宮司は壊すにしのびないと倉深くに隠した。それが数年前に発見され、今回の展示になった。皆々珍しい神像を心ゆくまで鑑賞し、二宮駅まで戻り近くの居酒屋で光迷さんが神社で買って来た御神酒を酌み交わし、辰年の幸を言祝いだ。吟行句の各人代表句を掲げる。

菜の花と富士山めでつ年酒かな     大澤 水牛

初詣古拙の笑みの稲田姫

水仙や海光浴ぶる吾妻山        大下 綾子

初旅の締め括りとてお神酒酌む

初詣終へてガードをくぐりけり     大下慶太郎

菜の花に抱かれたゆたふ相模灘     岡田 臣弘

眉根寄す女神に無事を初詣

稲荷社を抜けて菜の花銀の富士     須藤 光迷

年縄や須佐之男の腕もげし儘

初詣赤きもと結ひ染め絣        高井 百子

初空にその実捧げむ大榎木

菜の花を褥まがひに高いびき      堤 てる夫

上り来て淘綾(よろぎ)の浜の浅き春

初景色富士大山に相模灘        廣上 正市

神像の篝火に立つ淑気かな

 

 

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第7回日経俳句会賞発表

12月21日に開かれた日経俳句会の年次総会・合同句会の後の忘年懇親パーティで恒例の日経俳句会賞受賞者が発表され、贈賞式が行われた。受賞作品と受賞者は以下の通り。

 

《日経俳句会英尾賞》

微動だにせぬ妻の座や鏡餅      須藤 光迷

《日経俳句会賞》

葛のつる道に這ひ出る残暑かな    片野 涸魚

新蕎麦や常の暮らしの有難く     金指 正風

冬の風吾子手を探り手を握る     池村実千代

山椒魚石の顔して石の上       嵐田 啓明

 

「講評」(今泉恂之介)

微動だにせぬ妻の座や鏡餅     須藤 光迷

一家の主婦の存在感が十分に表現されている。新年を迎え、床の間などに飾られている鏡餅を見て、わが妻のごとく微動だにしない、という夫の思いである。ご主人は、年末の奥さんの働きぶりを見て、これは大したものだ、改めて認めざるを得なかったのだろう。俳句の特徴の一つと言われる諧謔性も感じられる。

 

葛のつる道に這ひ出る残暑かな   片野 涸魚

葛(くず)という植物は実にタフで、ことに夏はぐんぐんとつるを伸ばす。それが遂に道路まで這い出てきたのである。秋の七草の一つでもある葛を、このように詠んだ句は珍しい。道路に伸びた蔓が何とも暑苦しく、いかにも残暑、という感じを与えている。

 

新蕎麦や常の暮らしの有難く    金指 正風

何でもない句のようで、なかなかこうは詠めない。合評会では「素朴な暮らしのよさが、新蕎麦という語によって浮かび上がってくる」という評があった。新蕎麦という季語の特徴をよく掴んでいる句であり、年配の蕎麦好きには共感する人が多いのではないだろうか。

 

冬の風吾子手を探り手を握る    池村実千代

北風の吹く日に母親と子供が外を歩いる。子供が母親のオーバーのポケットに手を入れ、暖かい母の手を探り当てた。母親も子供の手を握り返す……。省略の多い句だが、よく読むとこのような状況が想像されよう。女性ならではの句である。

 

山椒魚石の顔して石の上      嵐田 啓明

日経俳句会主催の旅行で赤目四十八滝(三重県)を訪れたときの作品。川沿いの水族館に大山椒魚が何匹もいて、水槽の石の上でじっとしていた。大きな扁平な頭を「石の顔」とした表現が秀逸。石という言葉を二つ重ねているのも効果的で、旅行後のメール句会で最高点を得た。

 

 

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