独鈷山スケッチと田沢温泉蛍狩り吟行

麦秋の独鈷山と秘境の湯の蛍に感激

冷や汁ランチョンパーティで景気づけ

番町喜楽会と日経俳句会は「絵手紙実習と蛍狩り」吟行を6月11、12日、長野県上田市、小県郡青木村田沢温泉で実施した。参加者は日帰り参加1人を含め17名。今回吟行の目的の第一は、上田市塩田平にそびえる日本百名低山の一つ「独鈷山」を水彩画で、というもの。俳画の一歩を踏み出すきっかけにしようという試みである。双牛舎出版物のデザインを一手に引き受ける武蔵野美術大学出身のグラフィックデザイナー玉田春陽子氏を先生に、参加者の多くが小学校以来という絵筆を手にした。これに山里の蛍を鑑賞しようとの企画が加わり、宿泊を青木村田沢温泉に設定、蛍の乱舞を堪能した。

11日の集合場所は、吟行幹事の堤てる夫・百子宅。NHK大河ドラマ「真田丸」一色に染まった上田電鉄別所線の八木沢駅から徒歩2分のところにある。その道すがら、数日前から蛍が飛び始めた小流れがあり、道端には一本の大きな桑の木に色づいた実が生っている。庭には蛍袋が咲き始め、すぐそばを別所線が走る。その向こうには、東西6キロにわたって主尾根を伸ばす、スケッチの大目玉「独鈷山」が鎮座している。

まずは昼食。助っ人幹事の水牛氏が前日から泊まり込んで、味噌を練り、ゴマを磨り潰し、出汁を取り、紫蘇の葉、茗荷、小葱を刻んで特製「冷や汁」をこしらえた。それに加え、百子特製のおにぎりや燻製各種、別所温泉「松籟亭」から取り寄せた山芋の糠漬け、玉子焼き、さらには杉山智宥氏差し入れの手作り「新ラッキョウ漬け」や「くさや」も加わり、イナゴの佃煮、古漬けなど、夏の田舎料理がテーブル一杯並んだ。思い思いの場所で独鈷山を眺めながら冷や汁ランチを堪能したあとは、いよいよ「水彩画実習」。

幹事宅の庭から裏木戸を出て別所線の線路を渡り、濃く色づいた麦畑の一本道を独鈷山に向かって歩くこと約20分。塩田平の観光資料も展示されている「とっこ館」に着く。ここの研修室を拠点に、目の前に聳える独鈷山や夫神岳、塩田平名物の溜池「舌喰池」、「旧西塩田小学校」の古い木造校舎等々、思い思いに散らばってスケッチ。ざっと二時間半、悪戦苦闘の末、力作が次々に仕上がった。春陽子先生の評はたった一言。「みんな色が濃すぎる」。

今夜の宿泊先田沢温泉「富士屋ホテル」からのお迎えバスが独鈷館に到着する頃には、カラッとした涼しい風が吹き始めていた。塩田平は四方山に囲まれた盆地である。気温の差が激しい。参加者には長袖のシャツ持参を幹事から呼びかけてある。さぁ出発。バスはひと山越えて青木村に入った。青木村十観山のふところにある田沢温泉の露天風呂はまだ夕日の映える色濃き山々の中にあった。

夕食は田舎料理ながらも丹精込めたもので、一同和気あいあいで楽しんだ。可升さんが特注の地酒「佐久の花」の一升瓶を持って注いで回る。青木村特産・蕎麦焼酎「たち茜」の売れ行きも良い。途中からカラオケが始まり、冷峰さん、正裕さん、二堂さんらが熱唱した。トリは水馬さん。プロ顔負けの歌声で「北の蛍」。これを以て宴会はお開き、いよいよ本物の蛍鑑賞である。

今年は、田沢温泉でも例年より一週間ほど早く蛍が飛び始めたとか。宿から出ると早くも一匹二匹と飛んでいる。期待を膨らませつつ宿の脇の渓流に沿って数分下り、見どころスポットに着くと、何百匹もの蛍が舞っていた。手で蛍を掬おうとする人、カメラに写そうとする人、蛍が肩に止まって動かず嬉しいが困惑の表情の人。皆が童心に帰って蛍を追いかけた数十分であった。

二日目は雨という予報もあったが、快晴。三つのコースに分かれ観光に出向いた。ジャンボタクシー組8名は主に真田郷巡り。専用タクシー組4名は塩田平のお寺や無言館巡り。早めの帰京を望む2人は幹事の車で急ぎ足観光(別所温泉安楽寺の国宝三重塔他)をした。

吟行句会はいつも通り帰ってから幹事にメール投句し、参加者がメール選句する方式で行った。その結果、最高点は「客人の去りて再び梅雨寒し 百子」が26点というダントツの成績を収めて天賞。次いで「蛍火の行き交ふ彼の世この世かな 而云」が11点、「てのひらの螢少女にかへる君 可升」が10点で続いた。参加者の代表句は次の通り。

 

蛍火の行き交ふ彼の世この世かな     今泉 而云

滴れる独鈷山なり写生会         大澤 水牛

汗ぬぐひ絵筆を放り里めぐり       大平 睦子

螢飛ぶ闇おちこちの声やさし       片野 涸魚

夫神岳雨乞叶ひ田の光る         澤井 二堂

六文銭また六文銭夏木立         杉山 智宥

馬の背の真田本城青田風         須藤 光迷

客人の去りて再び梅雨寒し        高井 百子

渓流の闇に無言の螢舞ふ         田中 白山

冷や汁や薬味の茗荷ちょと多め      谷川 水馬

深き闇螢の恋の百二百          玉田春陽子

我が胸に息つく沢の螢かな        高瀬 大虫

冷汁のランチで始む写生会        堤 てる夫

ため池に哀しき民話みずすまし      徳永 正裕

あな嬉し胸に螢の金メダル        野田 冷峰

てのひらの螢少女にかへる君       廣田 可升

ブローチのかわりに付けし恋螢      星川 佳子

 

参加者は今泉而云、大澤水牛、大平睦子、片野涸魚、澤井二堂、杉山智宥、須藤光迷、高井百子、田中白山、谷川水馬、玉田春陽子、高瀬大虫、堤てる夫、徳永正裕、野田冷峰、廣田可升、星川佳子の各氏。

(まとめ 高井百子)

 

 

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