日経俳句会と番町喜楽会の合同吟行として三月十日から十二日まで二泊三日で山口、萩、津和野を回った。山口県立大学教授だった高瀬大虫さんが幹事となり、勝手知ったる山口市の湯田温泉を皮切りに、大内・毛利氏の旧跡、雪舟ゆかりの寺や庭、幕末明治維新の志士たちの旧宅、史跡などを巡遊、これが名残という玄界灘のとらふぐを賞味し、世界一の椿の原生林を巡るなど充実した吟行だった。
忙しい人たちばかりの俳句会だから「二泊」となると途端に参加者が少なくなる。それでも大虫幹事をはじめ、須藤光迷、堤てる夫、徳永正裕、高井百子、谷川水馬、玉田春陽子、大澤水牛の八名が参加した。高井、谷川、玉田三氏は番町喜楽会のメンバーで、残る五人は両方の句会を掛け持ちしている。とにかく気心の知れた仲間だけに和気藹々の俳句旅となり、絶品菜種河豚に感激して連句まで巻き上げてしまった。
帰京後に行ったメール句会には吟行に参加できなかった今泉而雲氏にも選句に加わってもらった。「三句以上いくらでも投句してよろしい」という妙な縛りを設けたところ、一人が八句と頑張ったが、七人が五句投句の常識的な範囲におさまった。七句選の結果最高は五点で、「芽柳や鯉は頬寄せ動かざる」という須藤光迷さんの津和野のメタボ鯉夫婦(?)を詠んだ句と、谷川水馬さんの「連衆の寄り目で掬ふ素魚かな」という萩シーマートでのシロウオ躍り食いに狂奔する一行を詠んだ句が選ばれた。その他人気をあつめた句は以下の通り。
《山口市にて》
菜種河豚発句品良く半歌仙 谷川 水馬
仕舞ふぐ熟女ふたりの箸使ひ 徳永 正裕
猿も訪ふ雲谷庵や紫木蓮 須藤 光迷
春北風の廃寺石垣鳴らしけり 大澤 水牛
春寒しむかし大寺の崩れ垣 徳永 正裕
《萩》
利休の忌萩の七化けてふを買ふ 谷川 水馬
槍さして若布採る人萩の海 高井 百子
扁額に溢れる明治梅の花 堤 てる夫
萩湾へなだるる椿二万本 大澤 水牛
海女の桶すこし流れぬ春の潮 高瀬 大虫
《津和野で》
注連縄を飾る駅舎や山笑ふ 玉田春陽子