12月21日に開かれた日経俳句会の年次総会・合同句会の後の忘年懇親パーティで恒例の日経俳句会賞受賞者が発表され、贈賞式が行われた。受賞作品と受賞者は以下の通り。
《日経俳句会英尾賞》
微動だにせぬ妻の座や鏡餅 須藤 光迷
《日経俳句会賞》
葛のつる道に這ひ出る残暑かな 片野 涸魚
新蕎麦や常の暮らしの有難く 金指 正風
冬の風吾子手を探り手を握る 池村実千代
山椒魚石の顔して石の上 嵐田 啓明
「講評」(今泉恂之介)
微動だにせぬ妻の座や鏡餅 須藤 光迷
一家の主婦の存在感が十分に表現されている。新年を迎え、床の間などに飾られている鏡餅を見て、わが妻のごとく微動だにしない、という夫の思いである。ご主人は、年末の奥さんの働きぶりを見て、これは大したものだ、改めて認めざるを得なかったのだろう。俳句の特徴の一つと言われる諧謔性も感じられる。
葛のつる道に這ひ出る残暑かな 片野 涸魚
葛(くず)という植物は実にタフで、ことに夏はぐんぐんとつるを伸ばす。それが遂に道路まで這い出てきたのである。秋の七草の一つでもある葛を、このように詠んだ句は珍しい。道路に伸びた蔓が何とも暑苦しく、いかにも残暑、という感じを与えている。
新蕎麦や常の暮らしの有難く 金指 正風
何でもない句のようで、なかなかこうは詠めない。合評会では「素朴な暮らしのよさが、新蕎麦という語によって浮かび上がってくる」という評があった。新蕎麦という季語の特徴をよく掴んでいる句であり、年配の蕎麦好きには共感する人が多いのではないだろうか。
冬の風吾子手を探り手を握る 池村実千代
北風の吹く日に母親と子供が外を歩いる。子供が母親のオーバーのポケットに手を入れ、暖かい母の手を探り当てた。母親も子供の手を握り返す……。省略の多い句だが、よく読むとこのような状況が想像されよう。女性ならではの句である。
山椒魚石の顔して石の上 嵐田 啓明
日経俳句会主催の旅行で赤目四十八滝(三重県)を訪れたときの作品。川沿いの水族館に大山椒魚が何匹もいて、水槽の石の上でじっとしていた。大きな扁平な頭を「石の顔」とした表現が秀逸。石という言葉を二つ重ねているのも効果的で、旅行後のメール句会で最高点を得た。
あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
お蔭をもちましてNPO法人双牛舎は俳句振興の一翼を担い着々と成果を積み重ねております。旧年は東日本大震災に関する会員の皆様の俳句をまとめた本『芽吹き』を出版、ヤフーブログ「みんなの俳句」も「楽しみにしている」と言って下さる方が増えてきました。辰年の今年も張り切って参りますので、ご声援のほどよろしくお願い申し上げます。大澤水牛