明治初期伊那谷の村々を漂泊した謎の俳人井上井月が最近にわかにブームになっている。双牛舎代表今泉恂之介さんも「子規は何を葬ったのか─空白の俳句史百年」(新潮選書)の中で井月を取り上げ、ブームの一翼を担った。
九月一日、長野県伊那市高遠で地元教育委員会や井月顕彰会などの主催により今泉さんの講演会「子規は井月を葬ったのか」が行われた。これの傍聴を兼ねて、日経俳句会、番町喜楽会の有志が一泊二日で伊那市の井月終焉の地などを訪れた。井月の墓や句碑、井月・山頭火交流のモニュメントなどを巡り、地元の井月研究家の方々と話し合い、さらに高遠城址や江戸時代大奥の老女で当地に流された絵島の所縁の場所などを散策、分杭峠のゼロ磁場体験など句材盛りだくさんの吟行となった。
帰京後いつものようにメール句会を挙行した。五句選句で天五点、地三点、人二点、入選一点で計算した結果、最高点は杉山智宥さんの「秋に来て語る高遠桜かな」が十四点だった。次席は徳永正裕さんの「ほかいびと秋蝶となる手向け酒」の十点。三席は八点、大澤水牛さんの「伊那谷の稲穂分けゆく消防車」「をみなえし揺れて絵島の墓詣」の二句となった。
吟行参加者十二人の人気を呼んだ句は以下の通り。
秋風の除幕式なり橋の上 今泉恂之介
御老女の囲屋敷や秋の風 大澤 水牛
井月が人と秋をよぶ師の語り 大平 睦子
三峰川を守る堤の秋茜 澤井 二堂
秋に来て語る高遠桜かな 杉山 智宥
蓮華寺へ急ぐ絵島に秋の風 須藤 光迷
猪弁を喰へば井月甦り 高瀬 大虫
句碑を説く翁がうへに赤とんぼ 谷川 水馬
伊那の秋呉服屋二の日二割引 玉田春陽子
伊那人の井月フィーバー秋あつし 堤 てる夫
ほかいびと秋蝶となる手向け酒 徳永 正裕
ゼロ磁場の神妙な顔秋の風 星川 佳子
(まとめ 堤てる夫)