11月7日(日)、上野・東京国立博物館庭園で開催された茶会と書の鑑賞会に参加しがてら合同吟行会を行った。当初は番町句会と喜楽会の催事として計画されたが、珍しい機会なので酔吟会、水木会、銀鴎会メンバーにも声をかけたところ、25名参加という大盛況になった。
書家赤池溪舟さん主宰の「くばの会」メンバーが、東博庭園内の茶室応挙館に則天武后の手になる石碑の巨大拓本を飾り、それをもとに会員が書いた作品を展示、それらを鑑賞しながら今泉恂之介氏の講話「則天武后について」を聞き、九条館と転合庵での茶会に臨席、庭園を散策して作句に励んだ。東博庭園には益田鈍翁ゆかりの応挙館をはじめ九条館、小堀遠州の転合庵、原三溪の持ち物であった春草蘆など由緒ある茶室が移築されている。一行はまず九条館で、和服姿も板についたチェコ女性が亭主をつとめる薄茶席に臨んだ。青目玉の美女に「茶の心」を説かれ、掛軸、茶碗、茶杓などお道具類の講釈をされて、皆々目を白黒させるという面白い体験をした。
小春日和の庭園では楓がほんの少々色づきはじめ、常緑の椎の木の陰には真っ赤に紅葉した櫨がのぞく。枯蓮の池には早くもコガモが十数羽到来、縄張り争いか、はたまた伴侶確定の争いか、しきりに騒いでいた。
句会は翌々日までに幹事に各自3句送り、幹事が配信する選句表をもとに5句選句してメール送信する日経俳句会独特の「メール句会」とした。選句集計の結果、最高点は10点で喜楽会の笹本塘外さんが「冬の虫ふと立ち止まる畳かな」で見事金的を射止めた。この句は九条館の薄茶席の寄付きで順を待っている時、座敷の真ん中に不意に現れ出でた虻に目を留めたもの。次席は7点で加沼鬼一さんの「銀杏を踏まじと歩む草履かな」という庭園散策の嘱目。三席は5点で5句が並び、以下、4点4句、3点6句、2点13句、1点20句と続いた。総じて今回吟行は句歴の浅い番町、喜楽両会面々の健闘が光った。3点以上獲得の句は以下の通り。
冬の虫ふと立ち止まる畳かな 笹本 塘外(喜楽会)
銀杏を踏まじと歩む草履かな 加沼 鬼一(番町句会)
山茶花の散りて五畳の庵かな 今泉 而雲(五句会)
陽も陰も風も覚えず浮寝鳥 谷川 透(喜楽会)
蹲の水の底なる秋の果 玉田春陽子(喜楽会)
点茶する背筋正しく冬に入る 徳永 正裕(水木会・酔吟会)
冬立つや異人の亭主茶を説けり 広上 正市(水木会・銀鴎会)
冬に入る水屋に低き声のあり 須藤 光迷(銀鴎会・番町句会)
炉開きや足袋の音さへ華やぎぬ 谷川 透(喜楽会)
茶道説くチェコの女居て今朝の冬 堤 てる夫(水木会・酔吟会)
落葉籠数寄の一部となりにけり 三好 六甫(番町句会)
よくもまあこんな小池に鴨来たる 大澤 水牛(五句会)
少しづつ自己主張してはぜ紅葉 高井 百子(番町句会)
枯蓮や時の流れに身をゆだね 高橋 楓子(番町句会)
拓本に歴史ひもとく冬日和 高橋 楓子(番町句会)
小春日や則天文字のゆるびをり 星川 佳子(水木会・酔吟会)
鈍翁の座敷にひらく狂ひ花 三好 六甫(番町句会)
(参加者)井上啓一、加沼鬼一、高井百子、高橋楓子、前島厳 水、三好六甫、和田紗羅(以上番町句会)、岩澤克惠、笹本塘外、 玉田春陽子、谷川透(以上喜楽会)、植村博明、大下 綾子、堤てる夫、徳永正裕、広上正市、星川佳子(以上水木会)、鈴木好夫、須藤光迷、高瀬大虫(以上銀鴎会)、大石柏 人、野田冷峰(以上酔吟会)、鈴木玲子(特別参加)、今泉而雲、 大澤水牛(以上幹事)の25名。
思いがけない一等で、大変びっくりしました。ありがとうございます。
あの虫があそこで立ち止まってくれなければできなかったわけで、虫にも感謝しなければいけませんね。