初日(はつひ)

 「初日」は、元旦の日の出、および日の光、昇って来る太陽そのものをも言う。除夜の鐘が鳴って新年が始まり、やがて夜が明け初めると東からお日様が昇って来る。太陽は旧年と全く変わらないのに、何とも言えず新鮮で神々しく感じるから不思議である。水平線から昇って来る太陽がいつもより大きく赤く見えたりするのも面白い。

 「初日の出」「初日影」「初旭」などとも詠まれる。初日が昇り始める直前に東の空がぼーっと赤く染まるのを「初茜(はつあかね)」と言い、だんだん明るくなって来る空を「初東雲(はつしののめ)」「初曙(はつあけぼの)」、初日に輝く空を「初空」あるいは「初御空(はつみそら)」と言う。いずれも類縁の季語である。

 人は感情の動物と言われる。喜怒哀楽さまざまな感情に翻弄されながら月日を送り、年を重ねて行く。いろいろ苦労した1年が終って新しい年を迎えると、「今年こそは良い年になりますように」と願う。楽しいことがたくさんあった人は、「どうぞ引き続き平安な年でありますように」と祈る。そのような気分に浸る1月1日の朝、昇って来る太陽は、まさに恰好の祈りの対象である。

 そうしたこともあって古来、日本人は初日の出を特別のものと捉え、その霊気に浸りつつ拝んできた。小高い山や海辺には大勢の人たちが夜明け前からつめかけ、初日の出を待った。全国的に有名なのは伊勢の二見浦だが、東京周辺だと江戸時代には神田明神、芝高輪の海岸、深川洲崎が三大名所だった。今ではこのいずれも高いビルなどが建て込んで邪魔をするから、初日の出を拝む場所はあちこちに分散している。場合によっては高層マンションの自宅から初日見物という人も出てくるようになった。

 旧暦時代には元旦は立春であり(もっとも暦のずれによって前後することが多かったが)、初春であった。「初日」も春を呼び覚ます太陽であった。しかし新暦の今日、初日を拝む元旦は寒の入りを控えた最も寒い時期である。この頃は気圧配置も西高東低の典型的な冬型となり、大陸の高気圧から日本の東方海上の低気圧に向って冷たい北西風が吹き込む。この季節風が日本列島を走る脊梁山脈にぶつかって日本海側の各地には大雪を降らせ、峰を越えて来る乾燥した空っ風が東日本一帯に吹き荒れる。

 つまり明治6年の改暦以降、こういう厳しい気象条件の下での「初日」遥拝を強いられることになった。しかし、確かに寒いことは寒いが、温暖化現象で旧暦時代の元旦と気温はさして変らないようでもある。とくに関東地方では元旦あたりは冬型気圧配置が安定していることが多く、割に晴天に恵まれ、初日の出を拝めるチャンスが多くなった。


  木に草に麦に先づ見る初日かな   小西来山
  隈もなき五尺の庵やはつ日影   高桑闌更
  土蔵からすぢかひにさすはつ日かな   小林一茶
  初日さす朱雀通りの静かさよ   河東碧梧桐
  九十九里ただの渚の初日かな   野村喜舟
  渚ゆくわが足跡に初日かげ   高浜年尾
  夢殿の夢の扉を初日敲つ   中村草田男
  をかしげに夫婦老いをり初日中   加藤知世子
  大初日海はなれんとしてゆらぐ   上村占魚
  初日出づ一人一人に真直ぐに   中戸川朝人

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