雪女(ゆきをんな)

 雪女郎とも言い、豪雪地帯に古くから伝わる妖怪伝説の一キャラクターである。ただし俳句歳時記では「雪」「吹雪」「風花」などと一緒に、「天文」の部に入れられている。雪女という幻想を生み出す神秘的な自然現象と捉えたためであろうか。

 雪女が都会の人間にもおなじみの存在になったのは、何と言っても小泉八雲の「怪談」のおかげであろう。八雲の雪女は舞台設定が武蔵国となっている。昔の日本列島は今と比べて冬がかなり厳しく、江戸時代あたりには武蔵の国でも吹雪はよくあることだったらしい。渡し守の番小屋に避難した18歳の巳之吉は九死に一生を得て、その後、雪女の変身である娘と結婚する。10人の子供に囲まれる幸せな家庭を築き上げたのだが、ふと、雪女に出会った恐ろしい思い出を女房に喋ってしまう。「あれほど人にしゃべってはいけないと言ったのに」の言葉とともに女房は煙になって消えてしまう。

 柳田国男の「遠野物語」の雪女はそれほど怖くない。「小正月の夜、又は冬の満月の夜は、雪女が出て遊ぶとも言ふ。童子をあまた引連れて来ると言へり。里の子ども冬は近辺の丘に行き、橇遊びをして面白さのあまり夜になることもあり。十五日の夜に限り、雪女が出るから早く帰れと戒めらるるは常のことなり。されど雪女を見たりと言ふ者は少なし。」というのが全文である。

 「……見たと言ふ者は少なし」ということは、稀には見た人もいたのだろうか。凍死というのは体中がぽかぽかして来て非常に気持の良いものだという、凍死寸前に救われた人の話をどこかで読んだ記憶がある。とにかく吹雪にまかれて方向感覚を失い、朦朧となってしまえば、雪女くらいには会いそうである。

 「雪女郎」というのは、一説では雪女よりさらに妖怪じみて悪性だという(「日本大歳時記」の石原八束解説)。確かに雪女郎という名前からして妖艶な感じである。この他に雪鬼、雪の精、雪婆、雪女御などという呼び方もある。雪坊主、雪男もあるが、こうなると少し滑稽味が加わって来るようである。


  みちのくの雪深ければ雪女郎   山口青邨
  新しき雪の降る夜の雪女   後藤夜半
  雪女郎おそろし父の恋恐ろし   中村草田男
  肩の荷のにはかに重し雪女  小原啄葉
  山深く烏連れ去る雪女郎   加藤千世子

閉じる