十一月八日は「立冬」。いよいよ冬に入る。と言っても立冬頃は天気晴朗、秋晴れという言葉が似つかわしい日々が続く。ただし日が落ちるとぐんと冷え込み、朝方などはコートが欲しいような寒さを感じることもある。中旬になれば紅葉が色づき、四囲の景色がそれまでとすっかり変る。日に日に冬の訪れを感じるようになる。そういう感覚を表現する言葉が「冬めく」であり、季語として定着した。
「めく」という接尾語は名詞や副詞について「そういう感じになったなあ」「そう見えるなあ」といった意味の動詞を作る。「あだめく」「年寄りめく」などの類である。そこで「冬めく」といえば、あたりの景色の変化や、冬の到来とともに店頭に現れる食べ物や衣類などを目にするにつけ、いかにも「冬になったなあ」という気分を表現する場合に用いられる。
同じような季語に「冬浅し」がある。こちらは「浅し」と言い切っていることからしても、「冬になったとは言え、まだまだ」という気持が色濃く残っている。「冬めく」は同じ初冬の季語だが、「冬浅し」よりは一週間なり十日なりたった頃合いを指す言葉であろう。また、「初冬(はつふゆ、しょとう)」「冬に入る」「冬来たる」「冬の始め」などもあるが、これらは「立冬」の傍題と見なされ、文字通り「冬が来た」という感懐を素直にうたう時によく使われている。
木枯しが吹き、木々の葉を散らし始め、時雨がぱらぱら降ったりする。肌寒い朝の道には山茶花が咲き競い、北関東には霜が降りる。晩秋から初冬の時期は日に日に周囲の雰囲気が変わってゆく。そぞろ逸る心持ちになる時期でもある。
口に袖あてゝ行く人冬めける 高浜 虚子
枝葉鳴るあした夕べに冬めきぬ 室積 徂春
欠航といふも冬めくもののうち 高野 素十
川音の冬めきて子持鮠うまし 山口 青邨
鎌倉の冬めく月夜得てしかな 久保田万太郎
冬めく夜鯉の輪切りの甘煮かな 大野 林火
冬めくやこころ素直に朝梳毛 石橋 秀野
はやばやとともる街燈冬めける 富田 直治
ヘルン旧居早やも冬めく昼灯 川上百合子
化野に濡れて冬めく仏たち 高橋 三松