コスモス

 メキシコ原産のキク科の一年草。茎がひょろひょろと一メートル以上も立ち上がり、羽状に裂けた葉が対生して、枝の先に直径五センチほどの白、ピンク、紅の花を咲かせる。夏の終りから十月いっぱい次々に咲き続ける。栽培が容易で、どんな所でも丈夫に育ち、放っておいても花を咲かせるから、大正から昭和の始めにかけて、首都圏をはじめ大都市周辺に生まれた新興住宅地に植えられ、全国的に広まった。

 オオハルシャギクという和名があるが、今ではそんな名前を言っても通じない。秋桜(あきざくら)という別名の方はまだ歌や詩に詠まれ、俳句でも時々使われている。

 可憐な花に似ず丈夫な草で、タネが散って翌年芽を出して雑草に交じって生きのび、空地や土手に野生化したコスモスが咲いているのをよく見かける。日当たりが良くて地味の肥えた庭などでは二メートル近くにも茂る。近頃の住宅地は敷地が狭くなるばかりで、盛大に繁茂するコスモスを育てられる庭が少なくなり、一時は東京の町中ではコスモスがほとんど見られなくなっていた。

 ところがバブル崩壊後の長期不況で造成地が売れなくなり、一九九〇年代半ばには都会の真中にも空地が目立つようになった。さらに、首都圏では近郊農家が農地の宅地並み課税を嫌って、実際は休耕地だが何か栽培しているように見せかけなければならないという妙な土地が出てきた。近隣のサラリーマン世帯に日曜農園として貸し出す気の利いた農家もあるが、貸借関係などが面倒になることを恐れる農家は税金逃れのために、収穫など全く期待せずに何か植え付ける。こういう場所にはコスモスがうってつけで、またぞろこの花の登場場面が増えてきた。

 最近では品種改良による派手な色の八重咲きや、狭い庭でも大丈夫という背が高くならない矮性種も生まれている。しかし、やはりコスモスは広々とした野原いっぱいに群生し、秋の風に柔らかな花茎をそよがせているところが一番である。


  コスモスのゆれかはしゐて相うたず    鈴鹿野風呂
  コスモスを離れし蝶に谿深し       水原秋櫻子
  青空へ手あげてきるや秋桜        五十崎古郷
  コスモスの押しよせている厨口      清崎 敏郎
  風船をつれコスモスの中帰る       石原 八束
  秋桜墓の対話の遠近に          大月紀奴夫
  コスモス共に咲かせ隣家と憎みあふ    川島彷徨子
  髪解けば胸ほぐれゆく秋ざくら      古賀まり子
  ありなしの風にコスモス応へけり     小川 悠子
  コスモスのピンクが与党他は野党     林  直人

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