戦前は「明治節」と言い、明治時代の天長節(明治天皇誕生日)である。天長節は大正、昭和と天皇が代るたびに日付けが変るわけだが、「近代日本を築いた明治大帝」は日本国民にとって特別な存在であるということで、昭和二年、この日を「明治節」と定め、子々孫々その遺徳を偲ぶよすがとした。
ところが第2次大戦で大日本帝国は完膚無きまでに叩かれ、敗戦、占領の憂き目に遭う。もとより「明治節」を祝うことなどはGHQが許さない。しかし、昭和21年11月3日、「戦争放棄、主権在民」を宣言した新憲法が公布された。この新憲法は半年の準備期間を経て翌22年5月3日に施行されたので、「憲法記念日」の祝日はそちらになった。
そこで、「自由と平和を愛し、文化をすすめる」新憲法の趣旨を強調する祝日があっても良いではないかという意見が政府部内に出て、そういう大義名分なら占領軍側としても11月3日を祝日とすることに反対する理由は無く、「文化の日」という新しい祝日が生れた。そもそも誰がそういうことを言い出したのかはっきりしないが、その底には明治節を懐かしがる多くの戦前派の気持が働いていたのかも知れない。その証拠に、この日が「文化の日」になってからも、別に国粋主義者とも思えないような俳人が「明治節」と詠んだ句をかなり残している。
衣替えした11月3日、皇居では文化勲章の授与式が行われ、文部科学省主催の芸術祭もこの日を中心として繰り広げられる。この日はまた全国的に晴天が多い気象上の「特異日」でもある。
とにかく天高く馬肥ゆる秋空の下、気持の良い日和である。中学、高校などの文化祭はじめ、屋外でのいろいろな行事が各地で行われる。「文化祭」と詠まれることもある。
婆ひとり臼を廻せり文化の日 五所平之助
壕舎の前に犬が睡れる文化の日 横山白虹
八十のネクタイ赤く文化の日 遠藤梧逸
垣刈ってさばさばとけふ文化の日 皆川白陀
盗まれし自転車どこへ文化の日 渡部ツマ子
一筋に生きてよき顏文化の日 小森白芒子
文化の日人集まれば序列あり 延平いくと
明治節乙女の体操胸隆く 石田波郷
日本の我はをみなや明治節 三橋鷹女
校長室に猫の来てをり文化祭 柴田シゲ子