大暑(たいしょ)

 二十四節気の一つで、太陽の黄経が120度の時。夏至の30日後、小暑の15日後で、太陽暦では7月23日頃に当る。この日から15日間が大暑で、暑さが最も厳しい季節とされる。これが明けると立秋になる。また、大暑を含んだ立秋前の18日間が「(夏の)土用」である。

 エアコンが普及するようになって、大暑とか土用とかの語感がやや薄れて来たようである。その一方で、「冷房病」などという新しい大暑現象も現れている。

 昔の人は、どちらかと言うと「寒さ」よりは「暑さ」をどう凌ぐかということに意を用いていたようである。寒いのは家の回りを囲ったり、火を焚いたり、たくさん着たりで何とか凌げるが、暑いのばかりはどうしようも無かったからに違いない。おれに、昔の日本人の食生活はかなり貧弱だったから、慢性栄養失調状態と言ってもよいくらいで、猛暑にでも遭えばすぐにげんなりとしてしまう。「夏負け」「夏痩せ」である。食欲が無くなり、体力を失い、水ばかり飲んでお腹をこわし、悪くするとそのまま死んでしまう。

 だから、この大暑の期間をいかに上手にやり過ごすかは、今日の我々が想像もつかないほど、真剣に考えるべき問題であったに違いない。昔の暦には猛暑をやり過ごす上で注意すべきことが細々と書き連ねてあり、避けるべき食べ合せを解説した瓦版も出版されている。金持は庭に池や流れをこしらえたり、河原に涼み床を迫り出して涼をとり、元気回復、食欲増進を図った。そんな贅沢とは無縁の庶民は、軒先に釣り忍や風鈴を下げたり、朝顔作りに精を出すなどして気分転換した。それやこれやで、俳句には暑さや涼しさにまつわる季語がたくさんある。

 大暑に類似の季語としては「酷暑」「極暑(ごくしょ)」「溽暑(じょくしょ)」「炎暑」「炎熱」「炎ゆる」「灼くる」などがある。この中で「酷暑」「極暑」が「大暑」に最も近いが、大暑よりもさらにひどい感じを与えるようである。「溽暑」は「湿暑」と同じで、日本を含めたアジア特有の「蒸し暑さ」であり、不快指数100といったところであろう。


  念力のゆるめば死ぬる大暑かな   村上鬼城
  芥川龍之介仏大暑かな   久保田万太郎
  水晶の念珠つめたき大暑かな   日野草城
  薯つるの谷へかむさる大暑かな   石橋秀野
  幹の脂いよいよ垂るゝ大暑かな   大橋櫻坡子
  飯粒のこぼるゝことや大暑の子   飴山実
  茄子汁を三日続けて大暑なり   坂間晴子
  焦げ臭き踏切渡る大暑の日   浜喜久美
  豆腐など食べて大暑にさからはず   高村遊子
  鬼瓦歯を食いしばる大暑かな   岡本求仁丸

閉じる