「しらはえ」とも言い、「白栄」とも書かれる。梅雨明けの頃に吹く南風である。一方、梅雨入りから長い梅雨の期間中、黒雲を運んで来る風を「黒南風」、荒っぽく吹くのを「荒南風」と言う。
太平洋高気圧が優勢になって梅雨前線を押し上げ、梅雨明けとなるのだが、青空に白雲が輝き、「梅雨明け十日」と言われる晴天が続くと本当にほっとした気分になる。
梅雨は日本人にとっては大切な雨期であり、これが無くては作物、ことに稲が育たず、夏期の水不足をもたらす。しかし、毎日降り籠められていると、どうしても滅入ってしまい、ああ早く梅雨が明けてくれないかと思う。湿っぽい黒雲を運ぶ黒南風はどうしても悪役。それに対して輝くように明るい白南風は梅雨明けを宣言する善玉の立役といったところである。
南風のことを漁師言葉で「はえ」とか「まじ」と言ったものが一般化し、これに雲の色をかぶせて梅雨期の季節変化を表したようである。これは推測だが、不気味な色をした雲を運び長雨や集中豪雨をもたらす「黒南風」という呼び方が先ず生れて、それが過ぎ去って明るい本格的な夏が来た時に吹く穏やかな南東風を「白」と名付けたのではあるまいか。「白黒をつける」とか「黒白を争う」など、日本人は昔から白と黒を対比させることが好きである。
白南風は「薫風」や「青嵐」と同じ南風だが、薫風や青嵐が青葉の上を渡って来る感じを前面に押し出しているのに対して、白南風は梅雨明けの清々しさを特に強調している。当然、薫風、青嵐よりも限られた時期の言葉ということになる。梅雨期がようやく終って、本格的な夏の幕開けという、季感の変化を言う季語である。
白南風の夕波高うなりにけり 芥川龍之介
白栄や比叡大影を鷺わたる 村山葵郷
白南風の天に噴煙巻き返す 上村占魚
白南風も鳴く海猫も日もすがら 清崎敏郎
白南風にかざしてまろし少女の掌 楠本憲吉
白南風や樫にいちにち雀鳴き 宮岡計次
白南風や豪華客船接岸す 河合順
一行詩白南風に立つ灯台は 福永耕二
白南風や島に赴任の医師若し 田中春江