凌霄の花(のうぜんのはな)

 中国原産の落葉蔓性花木え7月頃、ラッパ型の橙紅色の花をいっぱい咲かせる。「凌(りょう)」は「しのぐ、抜きん出る」意味であり、「霄(しょう)」というのは「そら、天上」の意味である。その名の通り、他の樹木や壁などを伝ってぐんぐんはい上がり、時には10メートルもの高さになる。真夏の青空を背景に濃緑の葉を茂らせて朱色の花を一斉に咲かせている様は実に見事である。横浜・山下公園の南の端に花園があり、その一角に凌霄花のトンネルがあって、7、8月の花盛りは壮観である。

 何しろ派手な花で、西洋人には大いに好まれ、南欧やカリフォルニアの家屋の白い漆喰壁にはことのほかよく似合う。アメリカでは中国渡来のこの花木をいろいろ改良して、今日では大輪花を咲かせる品種が多数生まれている。日本にはずいぶん早く渡来し、「のうぜんかづら」と呼ばれて珍重し、広い庭のある豪邸の門や、地方の豪農の蔵前などに植えられた。曲亭馬琴の「俳諧歳時記栞草」夏之部六月の項に、「……木につきて上がり、高さ数丈、故に凌霄と云、年久しきもの、藤大にして林の如し。春始て枝を生ず。一枝数葉、尖り長くして、歯あり、深青色。一枝十余朶、大さ牽牛花(あさがほ)の如し、かば色、細点あり、云々」と非常に詳しく解説している。江戸時代既にかなりの人気を呼んでいたことが分かる。

 夏負けなどにはとんと縁が無いような旺盛な茂りようで、これでもかとばかりに次々に花を咲かせ、咲くそばから散ってあたり一面真っ赤な絨毯を敷き詰めたようになる。朝顔形の花びらがそのままの姿で散らばる。そんな派手さに辟易するという人もいる。実際、この花には毒があるとも言われ、特にその花汁のついた手で目を触ってはいけないとも言われている。そう言えばこの木にはあまり虫がつかないようである。それはともかくとして、万物萎える真夏の陽射しの下で、濃緑の葉を涼しげに風にそよがせ、朱色の花びらが白壁に映える様はなかなかのものである。


  抱かれ居る児の躍るなり凌霄花   幸田露伴
  雨のなき空へのうぜん咲きのぼる   長谷川素逝
  松は立ち凌霄花は燃え十二時打つ   加藤楸邨
  凌霄花のあふられてゐる門に着く   八木絵馬
  凌霄をくぐりて禅へ参じけり   山崎羅春
  凌霄や午後は日の渦風の渦   古賀まり子
  のうぜんの花さけど吾は貧しくて   木山捷平
  凌霄に散る楽しみのありしかな   長崎玲子
  全き花多し凌霄の下掃かず   遠藤はつ
  凌霄や家うち暗き城下町   風間和雄

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