黄金虫(こがねむし)

 夏の夜に突然窓のすき間などから室内に闖入し、盲滅法ぶんぶん飛び回ったりする。「かなぶん」とか「ぶんぶん」と言われる甲虫である。ずんぐりむっくりした体つきは亀の子に似て、緑色あるいは黒褐色の甲全体が黄金色の光沢を帯びているところから「金亀子」「金亀虫」と書かれることもある。

 子供たちが大好きなカブトムシもコガネムシ科の昆虫だが、これが今では希少昆虫になっているのに対して、カナブンはかなり環境変化にも強いらしく、都会地の小公園などにも生息して、町中でもよく見られる。

 幼虫は薬指の先ほどもあるかなり大きなウジ虫で、木の葉や枯れ草が積った土中に巣くい、あらゆる植物の根っこを食い荒らすのでネキリムシと呼ばれる。晩春から初夏に成虫になり地上に飛び出すと木々の樹液を吸ったり、葉を食い荒らす。とんでもない害虫なのだが、その形も、ぶんぶん飛び回る様子もなんとなくユーモラスなので、許されてしまうところがある。

 明るい灯が好きなのか、夜間、灯火を慕って家の中に飛び込んで来る。非常にやかましく飛び回った後、窓枠などにとまったところを捉まえて外に放り投げるとまた飛び込んで来る。こいつめ、とばかりに床に叩き付けると死んだ振りなのか、脳震盪を起したのかしばらくじっと動かずに、やがてもぞもぞと足を動かし始めるが、一旦仰向けになるとなかなか起き上がれない。「まったくお前ばかじゃないか」なんてつぶやいたりしているうちに、そんなことをしているこちらこそばかじゃないかと気がついたりする。


  金亀子擲つ闇の深さかな   高浜虚子
  モナリザに仮死いつまでも黄金虫   西東三鬼
  黄金虫雲光りては暮れゆけり   角川源義
  死にて生きてかなぶんぶんが高く去る   平畑静塔
  恋捨つるごと金亀虫窓より捨つ   安住敦
  金亀子死はかがやきて居りしかな   河原枇杷男
  弱視われ金亀虫のごとぶつかりぬ   木村蕪城
  黄金虫つまめば六肢もて拒む   立岩利夫
  山小屋の灯に星よりの金亀子   西村椰子

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