春めく(はるめく)

 まだまだ寒さが残っているが、あたりの雰囲気が何となく春らしくなって来たという感じを「春めく」という。「めく」というのは名詞や副詞について「そう見える」「そういう感じがする」という意味の言葉をつくる。春だけでなく、冬、夏、秋にも付いて、それぞれの季節らしくなってきたなあという季語になる。しかし、「春めく」が中でも最もぴったりする感じがする。それだけ春という季節が人々に待ち望まれている証拠で、風の吹き方や草木の芽吹き、鳥たちの歌声や街行く人たちの服装などに、いち早く春の気配を感じ取って「春めく」と喜ぶのである。

 2月初めの立春の頃は関東地方あたりではまだ厳寒と言ってもいい季節である。しかし地面には早くも草の芽が顔をのぞかせたりして、春の兆しがほんの少しだが出て来る。その頃を詠む季語として「春浅し」がある。「春めく」はそれより少し遅く、2月中旬から3月初旬あたりの季語である。山国では雪が残っているが、そういうところにも春の訪れがはっきり分かる頃合いである。

  春めくや薮ありて雪ありて雪   小林一茶
  春めきてものの果てなる空の色   飯田蛇笏
  春めきし箒の先を土ころげ   星野立子
  春めくと雲に舞ふ陽に旅つげり   飯田龍太
  草よりも影に春めく色を見し   高木晴子
  片手ぶくろ失ひしより春めくや    及川貞
  生きものの小さきかげより春めきて   川崎邦子
  春めくと話して改札員同士   岡本眸
  春めきて沢庵うまき膳に坐す   前島長路

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