復活祭(ふっかつさい)

 「イースター」と英語をカタカナ表記にしたものも季語となっている。イエス・キリストがゴルゴタの丘で磔刑に処せられ、3日目に復活昇天したのを記念する日。誕生を祝うクリスマスと共に、キリスト教の二大祝日である。春分後の最初の満月の後の日曜日がイースターとされ、毎年日にちが変る。3月22日から4月25日までのいずれかの日曜日ということになるわけで、平成18年の今年は4月16日がイースター・サンデーである。

 明治維新後、キリスト教の禁教令が解かれて日本にも信者が一挙に増え、一方、文明開化の掛け声と共に西洋の文物が怒濤の如く押し寄せ、復活祭というものも知れ渡るようになった。俳句の世界でも大正時代あたりから西洋のものを季語に取り入れる動きが盛んになり、クリスマスと並んで復活祭もぼつぼつ詠まれるようになった。「パスハ」「パスカ」と詠まれることもある。これはギリシャ語で言う復活祭のことである。

 英語のEaster、ドイツ語のOsternはゲルマン神話の春の女神エオストレ(Eostre)から出ている。それ以外のヨーロッパ語の復活祭はすべてギリシャ語のパスカを語源にしており、そのパスカも古代ユダヤ教の過ぎ越しの祭ぺサー(Pesach)から出た言葉だという。つまり、冬を越し新しい年のめぐりを喜ぶ、春を迎える儀式と、イエス・キリストの受難が結びついた行事のようである。今日でも復活祭には彩色した卵を飾ったり食べたりするが、これは新しく生まれるものの象徴であり、春を祝う際のシンボルとされた古代の名残と言われている。多産の象徴ウサギがイースターのシンボルになっているのも、豊饒を祈る春祭の名残である。

 イースター・サンデー前の40日間(神に捧げる日とされる日曜日は勘定に入れないから正確には45日前になる)を四旬節(レント)と言い、キリストが荒野を彷徨った40日間に思いを馳せて、肉断ち、禁欲、懺悔の日々を送る事になっている。

 この四旬節に先立つ日月火の3日間が謝肉祭(カーニバル)で、大いに飲み食らうどんちゃん騒ぎを繰り広げる。リオのカーニバルが世界的に有名で、ニューオーリーンズのマルディグラ(謝肉祭の最終日)のパレードも名物になっている。このカーニバルはまさに春を迎える祭りで、ローマ時代の農耕神サトゥルヌスの祭礼で鯨飲馬食の乱痴気騒ぎをしたことが淵源とされている。

 こうした古代からの民俗とキリスト教が結びついて、カーニバルからイースター、さらにはその後の昇天祭(復活祭後40日)に至る、キリスト教信者にとっては延々と続く春の一大イベントが出来上がっていった。

 とにかくキリスト教にとっては大昔から伝えられて来た大切な行事だが、大多数の日本人にとっては輸入物のお祭りである。どうも貸衣装を着たような気分がつきまとう。ことに、俳句という日本独特の詩に取り入れようとした場合、無理が目立つようになってしまう。イースターという片仮名でなく「復活祭」という日本語に移し替えてみても、季語としてのふくらみが十分に得られない。

 どの歳時記でもいい。復活祭の例句を見ると、あまりこなれた句とは言えないようなのが並んでいる。景山筍吉のような敬虔なカトリック信者は「桜草の鉢を抱へて復活祭の娘」「三女また修女を希ひ復活祭」と、復活祭を身近に引き寄せているが、「雨粒小僧復活祭の池にはね」(平畑静塔)や「復活祭蜜蜂は蜜ささげ飛ぶ」(石田あき子)などになると、句としては面白いが復活祭が季語として働いているようには思えない。蜜蜂が蜜を捧げるように飛んでいるというのは、いかにも復活祭と似つかわしい光景だが、似つかわし過ぎて、どうも理に落ちているような感じがしてしまう。「中央寺院へ衷甸駆る木の間パスハ祭」(飯田蛇笏)となると、ルビがなければとても読めないし、句としてもエキゾチシズムに頼りすぎではなかろうか。

 ただ、何でも呑み込んで栄養にしてしまう所が日本人の特徴である。都合の良いところだけを取り入れて、大いに利用する。最近の結婚式は「キリスト教風」が非常に多い。その方がカッコいいから、と若い人たちは言う。教会も最近はビジネスを十二分に心得ているから、両性とも信者でなくとも簡単に引き受ける。復活祭もカーニバルもそういう気分で取り組めばいいのかも知れない。宗教行事であることはさておいて、カーニバルは春の訪れを祝うものとして、復活祭は春たけなわの感じを表す言葉として、気軽に俳句にも取り入れればいいのだ、と考えれば気が楽になる。

  仰向き歩みつ髪結ふ乙女復活祭   中村草田男
  素手のまづしさ復活祭の卵つかむ   平畑静塔
  復活祭妻が湯浴みの音も更く   村沢夏風
  粧ひて婢が休み乞ふ復活祭   下村ひろし
  復活祭手摺れ聖書に夫の文字   及川貞
  なにがなし善きこと言はな復活祭   野澤節子
  卵の影二重に復活祭の夜   有馬朗人
  岳の日が森にあかるし復活祭   沢田緑生
  かさなって仔犬ねむれり復活祭   三島隆英
  たんぽぽはパスカの花よ地に充てる   山下青芝

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