年忘(としわすれ)、忘年会

 「年忘」にはその年の苦労を忘れようという意味があり、昔から年の暮に開くアルコールつきの集会として行われていた。現代社会では「忘年会」の名に変わったが、俳句の場合は「年忘」の語が普通に用いられている。ただし表記は「年忘れ」と仮名を送るのが一般的である。

そば切りのまず一口やとし忘   西山宗因
くむ酒やくれ行くとしを忘れ水   岡西惟中
人やしる冬至の前のとし忘   山口素堂
せつかれて年忘するきげんかな   松尾芭蕉
年わすれ三人よりて喧嘩かな   松尾芭蕉
人に家を買はせて我は年忘れ   松尾芭蕉
魚鳥の心は知らず年忘れ   松尾芭蕉
人ごころ問はばや年の忘れ様(よう)   杉山杉風
笑ふより泣くを過ごすなとしわすれ   斎部路通
羽衣や松に忘るる年の皺   池西言水
春かけて旅の万(よろず)やとし忘れ   広瀬惟然
二タ唐人見し世がたりをとしわすれ   小西来山
(訳)西欧人二人を見かけた。年忘れでは、彼らのことを世間話に座がはずんだ。
姥(うば)ふえてしかも美女なし年忘れ   宝井其角
行灯(あんどん)を消せば鼠の年忘   内藤丈草
誰(た)が杖の取替りけん年わすれ   秋水
余所(よそ)に寝て緞子(どんす)の夜着の年忘   各務支考
うかれ女(め)とともに忘るる年もあり   馬場存義
大名に酒の友あり年忘れ   炭太祇
小僧等に法問させて年忘れ   与謝蕪村
(注)法問は、仏教のについての問答。
鷺鴎はるかに年を忘れけり   大島蓼太
履(くつ)片足(かたし)芝と神田よとし忘れ   大島蓼太
外記節(げきぶし)のむかし男やとし忘れ   大島蓼太
(注)外記節は古浄瑠璃の一派。江戸中期に流行した。
宮方(みやがた)の武士うつくしや年忘   黒柳召波
燭まして夜を継ぎにけり年忘れ   黒柳召波
酔ふ臥(ふ)しの妹(いも)なつかしや年忘れ   黒柳召波
とし忘れ広野の鶴を見に行かん   三浦樗良
あたたかに着てはづかしや年忘   加藤暁台
とし忘れけふは白髪の仲ま入(り)   加藤暁台
わかき人に交じりてうれし年忘   高井几董
夢の世の夢を見る間の年忘   松岡青蘿
うき恋に似し暁やとしわすれ   松岡青蘿
独り身や上野歩行(ある)きて年忘   小林一茶
山の手や渋茶すすりて年忘   小林一茶
いくつやら覚えぬ上にとし忘   小林一茶
家なしや今夜も人の年忘   小林一茶
年忘柱にもたれ話しけり   高浜虚子
我昔揚屋に年を忘れける   吉野左衛門
歌舞伎座の絨毯踏みつ年忘   渡辺水巴
遅参なき忘年会の始めれり   前田普羅
どろどろに酔うてしまひぬ年わすれ   日野草城

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