正月、寝正月

 正月は「1年の最初の月」を意味するが、実質的には、松の内(松飾りのある間=普通は7日まで)の間、とみなしていいだろう。俳句の実作例でも「正月」には新年の趣が詠み込まれており、「一月」とはかなり性格の違う季語とみなされている。1月は新年より「冬」の性格を持つ季語なので、この項には入れていない。

正月も身は泥(ひじりこ)のうなぎかな   服部嵐雪
正月や霞にならぬうす曇   森川許六
正月の月夜は嬉し見はせねど   各務支考
膳立もまだ正月の匂ひかな   各務支考
正月や三日過れば人古し   高桑闌更
正月や皮足袋白き鍛冶の弟子   高桑闌更
正月や猿をのせ行く米ぶくろ   高桑闌更
正月の顔に成りけり小職人   三浦樗良
正月も母なき宿ぞ物さびし   蝶夢
正月や胼(たこ)いたましき采女達   高井几董
正月の子供に成(なり)て見たき哉   小林一茶
正月やごろりと寝たるとつとき着   小林一茶
(注)とっとき着は「取って置き着」。晴れ着。
正月の町にするとや雪が降る   小林一茶
(注)雪が降って正月らしくする、という意味。
古羽織長(おさ)の正月も過ぎにけり   小林一茶
道端の土めずらしやお正月   小林一茶
寝正月淋しく釜のたぎるなり   紅華
正月やものの教へに数へ唄   羊我
正月も更けてはただの夜なりけり   内藤鳴雪
ふるさとの正月誰も彼も無事   山県瓜青
霜除(よけ)に菜の花黄なりお正月   村上鬼城
正月や里はきのふの古薄(すすき)   正岡子規
正月やよき旅をして梅を見る   河東碧梧桐
子供欲しく思ふ正月よその子の着物   大谷繞石
一酔に正月暮れし思いひかな   青木月斗
正月や宵寝の町を風のこゑ   永井荷風
山路来て正月青き芒(すすき)かな   渡辺水巴
正月の足袋白うして母在(おわ)す   大谷碧雲居
松風のつのれば侘し寝正月   高田蝶衣
正月や銭もて遊ぶ閭門の子   高田蝶衣
(注)閭門(りょもん)は村里の入口。
正月や塵も落さぬ侘び籠り   宮部寸七翁
牛馬も里の神なりお正月   岩谷山梔子
正月をして出て行きむ鮪船   松本たかし

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