餅搗(もちつき)、餅米洗ふ、餅筵(もちむしろ)、餅配る、餅切る、餅焼く、黴餅、餅の札

 冬の季語になっている「餅」は、新年の雑煮などのために年末に搗く餅のこと。昭和2、30年代までは一般家庭でも、暮れが押し詰まると庭に臼を持ち出し、餅を搗く風景が見られた。また餅つき料金を貰って餅を搗く商売、「賃餅」もあった。搗いた餅を親戚や近隣に配る「餅配り」は現代のお歳暮の意味を持っていた。

有明も三十日に近し餅の音   松尾芭蕉
暮れ暮れて餅を木魂(こだま)の侘び寝かな   松尾芭蕉
もちつきや犬の見上る杵の先   森下許六
弱法師(よろぼうし)我門ゆるせもちの札   宝井其角
(注)江戸時代、物乞いが各家から餅をもらい、その印に札を貼る風習があった。
餅搗の其の夜はそこに草まくら   立花北枝
餅つゐた音は夢かよ朝烏   各務支考
横につく鐘は寒きを餅の音   横井也有
(訳)横から撞く鐘は寒い音だが、縦に搗く餅搗きは心豊かな音を響かせる。
庵更に幽(かす)かなり余所の餅の音   横井也有
餅搗やものの答へる深山寺   炭太祇
餅の粉家内に白きゆふべかな   炭太祇
青かりし時より清し餅筵(むしろ)   大島蓼太
(訳)稲で作ったばかりの青筵より、餅筵になった今の筵の方が清清しく見える。
餅つきや焚火のうつる嫁の顔   黒柳召波
大雪に餅を並べし筵かな   建部巣兆
餅つきや今それがしも古郷人   小林一茶
餅搗が隣に来たといふ子哉   小林一茶
あこが餅あこが餅とて並べけり   小林一茶
(訳)「これは私のお餅」「これも私の」と子供が言いながら餅を並べている。
我が門に来さうにしたり配り餅   小林一茶
当てにした餅が二所(ふたとこ)外れけり   小林一茶
一枚の餅の明りに寝たりけり   小林一茶
(訳)有難く頂戴した一枚の餅。寝るとき、餅の白さが明りのように見える。
小筵や餅を定木に餅をきる   小林一茶
草の戸ものがしはせぬや餅の札   小林一茶
鶏が餅踏んづけて通りけり   小林一茶
三角の餅をいただくまま子かな   小林一茶
(注)不遇な継子(ままこ)は餅の角のところを貰って食べる。
餅つきの手伝ひするや小山伏   馬仏
筵目の荒き餅かな田舎より   大愚
おかがみのほかほかけむる筵かな    村上鬼城
臼餅を転がしてながら借り借り来る   篠原温亭
かるがると上る目出度し餅の杵(きね)   高浜虚子
三臼目を鏡餅とはなしにけり   高浜虚子
神棚の前より敷きぬ餅むしろ   高浜虚子
餅筵踏んで仏に灯(ともし)けり   岡本松浜
小鼠の渡り歩くや餅筵   青木月斗
餅搗の水呑みこぼす腭(あぎと)かな   松本たかし
(注)腭は、顎(あご)。

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