福寿草、元日草

 福寿草を元旦に飾る風習は江戸初期からで、そのころすでに元日草とも呼ばれていた。しかし新暦で二月になってから咲くのが普通。新年の季語とすれば、当然、栽培された鉢物が対象になる。山野に咲く野生種を「春の季語」として詠んだら、新たな福寿草の句が生まれて来るだろう。

福寿草一寸ものの始めなり   池西言水
ふたもとはかたき莟(つぼみ)や福寿草   黒柳召波
小書院のこの夕ぐれや福寿草   炭太祇
朝日さす弓師が店(たな)や福寿草   与謝蕪村
あらそはぬ国いただくや福寿草   大島蓼太
目出度さを一字まけたり福寿草   大島蓼太
(注)「福禄寿」に一字足りない、という洒落。
福寿草硯(すずり)にあまる水かけん   佐藤晩得
ふく寿草蓬(よもぎ)にさまをかくしたり   大伴大江丸
ふたもとはかたき莟(つぼみ)や福寿草   黒柳召波
(注)「ひともとは」とした書もある。
ひと雫(しずく)するや朝日の福寿草   成田蒼虬
張箱(ちょうばこ)の上に咲きけり福寿草   小林一茶
(注)張箱は帳場に置く大きな箱で、帳面などを入れておく。
福寿草くさとは見えぬ影ぼうし   桜井梅室
洗ひ干す硯(すずり)二面や福寿草   雀子
三ケ日過ぎて一花や福寿草   疎竹
福寿草座敷明るく日の移る   静居
袋物あきなふ店や福寿草   乙堂
咲きみちて置かれしままや福寿草   蘆仙
福寿草貧乏草もあらまほし   正岡子規
(注)あらまほしは「あればいいが」。貧乏な私にはその方がふさわしい、の意味か。
福寿草影三寸の日向哉   正岡子規
莟(つぼみ)太く開かぬを愛す福寿草   正岡子規
南山をかざすや窓の福寿草   正岡子規
福寿草一つ二つの匂ひ哉   松瀬青々
わりなくも眠き灯明し福寿草   筏井竹の門
福寿草少し開いて亭午なり   大野洒竹
(注)亭午は正午、真昼のこと。
福寿草咲くを待ちつつ忘れたる   佐藤紅緑
何もなき床に置きけり福寿草   高浜虚子
福寿草遺産といふは蔵書のみ   高浜虚子
幾鉢の花に遅速や福寿草   大谷句仏
盆山に奇石峨々たり福寿草   志田素琴
几(机)上なる猿簑集や福寿草   青木月斗
日のあたる窓の障子や福寿草   永井荷風
一鉢の福寿草おらが庵の春   沼夜濤
世も末の絵の芳年や福寿草   上川井梨葉
(注)芳年(よしとし)は幕末、明治初期の浮世絵画家・月岡芳年。残酷な絵が有名。
膳について子等賑々し福寿草   杉田久女
持ち歩きて福寿草咲かす日南(ひなた)かな   吉田冬葉
日の障子太鼓の如し福寿草   松本たかし

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