霜、初霜、霜解け、霜の夜

霜、初霜、霜の声、大霜、深霜、強霜、霜解け、霜の夜、霜夜

 霜とは、地表面付近の気温が氷点下になったとき水蒸気が凍り、植物の枝葉、地面、建物の屋根や車の外側などに付着したもの。この状態を「霜が降りる」といい、植物の上に降りると、農作物などに大きな被害を生む「霜枯れ」になることがある。

霜きえて松の葉けぶる旭哉   飯尾宗祇
里人のわたり候か橋の霜   西山宗因
葛の葉のおつるがうらみ夜の霜   西山宗因
唐人も渡るや霜の日本橋   斎藤徳元
(注)徳元(とくげん)は織田信秀の臣、松永貞徳の門。
真直(ぐ)に霜をわけたり長慶寺   天野桃隣
朝風や霜の手を吹く渡し守   天野桃隣
塩浜や焼かでそのまま今朝の霜   井原西鶴
夜すがらや竹こほらするけさのしも   松尾芭蕉
ひつぢ田に霜の花見る朝(あした)かな   松尾芭蕉
霜をきて衣かたしく捨子かな   松尾芭蕉
(注)「霜を着て風を敷寝の捨子かな」もある。
葛の葉のおもて見せけり今朝の霜   松尾芭蕉
借りて寝む案山子(かかし)の袖や夜半の霜   松尾芭蕉
霜の朝せん檀の実のこぼれけり   坪井杜国
あけぼのや霜にかぶ菜の哀れなる   杉山杉風
霜踏んで跡に見えたる朽葉かな   杉山杉風
隠れ家や寝覚さらりと笹の霜   斎部路通
馬道や庵をはなれて霜の屋根   向井去来
朝霜や人参つんで墓まゐり   向井去来
置く霜やけふ立つ尼の古葛籠(つづら)   斯波園女
初しもや鐘楼の道沓(くつ)のあと   森川許六
初霜や小笹が下のゑびかつら   広瀬惟然
ひだるさに馴(れ)てよく寝る霜夜かな   広瀬惟然
鵯(ひよどり)や霜の梢に鳴わたり   広瀬惟然
冬の夜に蚊の居る月の霜白し   越智越人
釜ぞ鳴る霜幾度かけぶるらん   椎本才麿
山犬を馬が嗅ぎ出す霜夜かな   宝井其角
鍬鍛冶に隠者尋ねん畑の霜   宝井其角
あな寒しかくれ家いそげ霜の蟹   宝井其角
栗飯の焦げて匂ふや霜の声   宝井其角
酒くさきふとん剥ぎけり霜の声   宝井其角
初霜に何とおよるぞ舟の中   宝井其角
(注)「およる」は「いる」の尊敬語。いらっしゃる。
霜解や都に出でし下駄の跡   水間沾徳
辛崎の鮒煮る霜の月見かな   立花北枝
初しもや麦まく土のうら表   立花北枝
朝霜や茶湯の後のくすり鍋   内藤丈草
はつ霜の泥によごれつ草の色   内藤丈草
ひき起す霜の薄(すすき)や朝の門   内藤丈草
初霜や衾(ふすま)にこもる鐘の声   志太野坡
初霜や芦折れちがふ浜堤   各務支考
一つ葉や一葉一葉の今朝の霜   各務支考
(注)一つ葉は、常緑シダの一種。山野に自生する。
ただ遊ぶ心も淋し竹の霜   各務支考
姥捨の名を野にかなし草の霜   横井也有
水仙に昼見る露やけさの霜   横井也有
長生キの笠に霜ふる案山子かな   横井也有
句を練て腸(はらわた)うごく霜夜かな   炭太祇
行く舟にこぼるる霜や蘆の音   炭太祇
鍼立(はりたて)の門たたくなり霜の声   大島蓼太
(注)鍼立は、鍼灸師。
野を向いて行く眼の渋し今朝の霜   溝口素丸
初霜やわずらふ鶴を遠く見る   与謝蕪村
我骨のふとんにさはる霜夜かな   与謝蕪村
霜百里舟中に我月を領す   与謝蕪村
たんぽぽのわすれ花あり路の霜   与謝蕪村
衛士(えじ)の火もしらしら霜の夜明かな   与謝蕪村
松明(たいまつ)ふりて船橋わたる夜の霜   与謝蕪村
野の馬の韮(にら)をはみ折る霜の朝   与謝蕪村
ひとの子の悪処戻りや門の霜   与謝蕪村
笘(とま)ぶねの霜や寝覚の鼻の先   与謝蕪村
霜多き山路になりぬ猿の声   堀麦水
置く霜や空一枚に野一枚   大島蓼太
霜凪や鶴のいただく月ひとつ   大島蓼太
鳴きながら霜ふるひけり明がらす   大伴大江丸
うかうかと生きてしも夜や蟋蟀(きりぎりす)   勝見二柳
甘干も粉をふきそめよ軒の霜   勝見二柳
(注)甘干は、渋柿の皮をむき日に干したもの。干柿。
霜満(ち)て竹静(か)なる夜也けり   高桑闌更
赤々と霜氷りけり蕎麦の茎   高桑闌更
橋の霜誰が落してや炭二つ   高桑闌更
羊煮て兵を労(ねぎら)ふ霜夜かな   黒柳召波
機殿の霜夜も更ぬ女声   黒柳召波
はつしもや飯の湯あまき朝日和   三浦樗良
霜の夜や鴫(しぎ)の羽かき尚さむし   三浦樗良
橋立や霜一すぢの朝朗(あさぼらけ)   吉分大魯
霜に歎ず蛼(こおろぎ)髭を握りけり   吉分大魯
荒畠やはつかに霜の折れ葱(ねぶか)   吉分大魯
(注)はつかには、僅かに。
かさなりて犬の子やなく霜や置く   吉分大魯
暁や鯨の吼(ほ)ゆる霜の海   加藤暁台
(注)鯨が潮を吹いている様子を「吼ゆる」と表現した。
霜に伏して思ひ入ること地三尺   加藤暁台
つやつやと柳に霜の降る夜かな   加藤暁台
朝顔の種啄(は)む霜の鼠かな   加藤暁台
霜冴えて雀ひそかに鳴く夜かな   加藤暁台
霜にぬれてもみじ葉かづく小雀かな   加藤暁台
もろこしの鐘も聞えぬ霜の夜半   蝶夢
みちのくの空たよりなや霜の声   加舎白雄
鬼歯朶も木賊も霜の旦(あした)かな   加舎白雄
朝夕や鶴の餌まきが橋の霜   加舎白雄
何に身を寄すともなしや霜の雁   加舎白雄
海かけて霧の晴見る檻(てすり)かな   加舎白雄
灯火のすわりて氷るしも夜かな   松岡青蘿
初しもや水ひたひたの蘆の葉に   松岡青蘿
しら菊に赤みさしけり霜の朝   松岡青蘿
かささぎの霜のひと夜をやどり哉   高井几董
結構な天気つづきや草の霜   高井几董
はつ霜や野わたしに乗(る)馬の息   高井几董
霜痛し草鞋(わらじ)にはさむうつせ貝   高井几董
(注)うつせ貝(虚貝)は、空の貝殻。
うなり出す三斗の鍋も霜夜かな   夏目成美
旅人の捨(て)た箸なり暁のしも   夏目成美
塚の霜われも苔にはちかき身ぞ   夏目成美
大名も寒い風情や松の霜   夏目成美
初霜や田の土とりて竈(かまど)をぬる   建部巣兆
むつまじき煙こそたて霜の家   成田蒼虬
里の灯も暁らしきしも夜かな   成田蒼虬
霜払ふ音は入江の小舟かな   成田蒼虬
初霜や茎の歯ぎれも去年まで   小林一茶
霜の夜や前居た人の煤下る   小林一茶
霜の夜や横丁曲る迷子鉦(かね)   小林一茶
空色の山は上総か霜日和   小林一茶
一人前菜も青みけりけさの霜   小林一茶
朝霜やしかも子供の御花売   小林一茶
朝霜に野鍛冶が散り火走るかな   小林一茶
霜おくや此夜はたして子を捨てる   小林一茶
霜おくと呼ばるる小便ついでかな   小林一茶
塚の霜とけるを見てもなみだかな   桜井梅室
よく見れば蓼のふしにも今朝の霜   桜井梅室
さむしろの霜も世にふる宿りかな   桜井梅室
熊坂が長刀(なぎなた)あぶる霜夜かな   森部湖十
(訳)平安末期の盗賊・熊坂長範が長刀を火にあぶりながら、戦いを待っている。
鐘つかぬ夜の静さを霜の声   萩原乙彦
鳥の踏む通天橋や朝の霜   角田竹冷
黙読の書に灯はふけて霜の声   伊藤松宇
天を焦がす遠くの火事や霜の鐘   伊藤松宇
鷹匠の弥七まゐりぬ霜の朝   中川四明
もうもうと霜夜に烟る煙出し   村上鬼城
ほつかりと日の当りけり霜の塔   正岡子規
石蕗(つわ)の葉の霜に尿する小僧かな   正岡子規
狼の小便したり草の霜   正岡子規
南天をこぼさぬ霜の静かさよ   正岡子規
参道や霜に篝(かがり)の焚き落し   武田鶯塘
朝霜やちよぼに勝ちたる懐手   泉鏡花
(注)ちょぼは、樗蒲一(ちょぼいち)。中国から渡来した博奕の一種。
霜降れば霜を楯とす法(のり)の城   高浜虚子
強霜に旭は曈々(とうとう)と昇るなり   高浜虚子
霜いたく降ればや狐いたく啼く   田中田士英
先生の銭(ぜに)かぞえゐる霜夜かな   寺田寅彦
(注)先生は自分のことだろう。
大霜の枯蔓(つる)鳴らす雀かな   臼田亜浪
初霜や物干竿の節の上   永井荷風
暁の湖静なり船の霜   羅蘇山人
木揺れなき夜の一ッ時や霜の声   大須賀乙字
星座なべて煌(きらめ)くは霜降りかかる   渡辺水巴
霜強し蓮華とひらく八ヶ嶽   前田普羅
朝霜や寒竹林の鉦(かね)の音   北原白秋
久にきく子規の根岸の霜の鐘   室積徂春
霜のふる夜を菅笠のゆくへかな   芥川龍之介
霜どけの葉を垂らしたり大八つ手   芥川龍之介
霜かわくときさわさわと葉が伸びる   飛鳥田孋無公
霜ふると起きて聞く夜の幌車   石橋秀野

閉じる