炬燵、火燵(こたつ)、置炬燵、切炬燵、堀炬燵、行火(あんか)

 炬燵は方形のやぐらの上に布団を掛けて足を暖めるもの。室町時代に考案されたと言われ、一般家庭の暖房用として広く用いられてきた。元来は床を四辺形に切って炉を作り、その上にやぐらを置き、布団をかけた形式(切り炬燵)だったが、簡便で移動も可能な置炬燵や、炉を深くした腰掛式の掘炬燵も作られた。電化製品が家庭に入りだしたころから電気炬燵が一般的になり、現在も根強い人気を持っている。

小家なれど膝をゆるりの炬燵哉   西山宗因
行く客の跡をうづむや置炬燵   西山宗因
住みつかぬ旅のこころや置炬燵   松尾芭蕉
硯このむ奈良が法師の炬燵かな   松尾芭蕉
きりぎりす忘れ音に鳴く火燵かな   松尾芭蕉
俤(おもかげ)や火燵の際の此のはしら   杉山杉風
物かくに少しは高き巨燵哉   窪田猿雖
炬燵出て古里恋し星月夜   池西言水
真夜中や炬燵際まで月の影   向井去来
看病も一人前の火燵かな  向井去来
古火燵足またはさむわかれかな  小西来山
火燵から青砥が銭を拾ひけり   宝井其角
(注)十文の銭を五十文使って探した、という青砥藤綱の故事をふまえる。
寝心やこたつふとんのさめぬ中   宝井其角
つくづくともののはじまる炬燵かな   上島鬼貫
下京を廻りて炬燵行脚かな   内藤丈草
草庵の炬燵の下や古狸   内藤丈草
ほこほこと朝日さしこむ炬燵かな   内藤丈草
影法師横になりたる火燵かな   内藤丈草
娑婆に独り淋しさおもへ置炬燵   各務支考
炬燵にはいかにあたるぞ蛸の足   浜田洒堂
うかれ女にとりまかれたる火燵哉   中川乙由
子は起て乳母の鼾のこたつかな   横井也有
かくて又夏まつ山か置ごたつ   横井也有
雪見とて寝ころぶ所こたつかな   横井也有
そこそこへ声あゆませて炬燵かな   加賀千代女
下戸ひとり酒に逃たる火燵哉   炭太祇
恥ずかしやあたりゆがめし置火燵   炭太祇
草の戸や巨燵の中も風の行く   炭太祇
あでやかに古りし女や敷炬燵   炭太祇
(注)敷炬燵は置炬燵と同じ。
淀舟や炬燵の下の水の音   炭太祇
腰ぬけの妻うつくしき火燵哉   与謝蕪村
巨燵出て早あしもとの野川哉   与謝蕪村
宿かへて炬燵うれしき在どころ   与謝蕪村
極楽の道へふみ込むこたつかな   大島蓼太
人老いて巨燵にあれる踵(かかと)かな   加舎白雄
辞儀をして皆足出さぬ巨燵かな   高井几董
思ふ人の側へ割込む炬燵哉   小林一茶
づぶ濡れの大名を見るこたつ哉   小林一茶
うすうすと寝るや炬燵の伏見舟   小林一茶
出勤に暫(しば)し間のある火燵かな   内藤鳴雪
火を入れて櫓(やぐら)冷たき火燵かな   内藤鳴雪
美しき蒲団かけたり置火燵   村上鬼城
巨燵して語れ真田が冬の陣   正岡子規
炬燵から見ゆるや橋の人通り   正岡子規
いくさから便とどきし巨燵かな   正岡子規
人老いぬ巨燵を本の置処   正岡子規
飼犬を甘つたらかす火燵かな   相島虚吼
炬燵出て経蔵(きょうぞう)に入る律師かな   大野洒竹
(注)経蔵は大蔵経などの経典を納める建物。律師は徳の高い僧。
乗りて来し馬を火燵に見つつをる   河東碧梧桐
炬燵より背低き老となられけり   高浜虚子
句を玉と暖めてをる炬燵かな   高浜虚子
他愛なき夢や揚屋の置巨燵   吉野左衛門
袈裟取つて凡夫に返る炬燵かな   岡本松浜
枯野見の友を待ちわぶ火燵かな   中野三允
よみさしの小本ふせたる炬燵かな   永井荷風
炬燵して小説に泣く女かな   羅蘇山人
三人に成りて淋しきこたつ哉   山本梅史
のぼせたる頬うつくしや置火燵   日野草城
京の文こたつに長く置かれけり   久保より江
日がなゐ(居)て夕しづもりの炬燵かな   松本たかし

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