鴨はカモ目、カモ科の鳥のうち全長35センチから60センチほどの水鳥。オスは雌より大型で、青、黒など美しい色をしている。マガモ、コガモ、ヨシガモ、トモエガモ、スズガモなどは秋から冬にかけて北の地から日本に飛来する渡り鳥で、このため冬の季語になっている。しかしカルガモ(軽鴨)は留鳥(季節的な渡りをしない鳥)なので、俳句の季語にはならない。カモ目の大型種のガン(雁)は秋の季語。
海暮(くれ)て鴨の声ほのかに白し 松尾芭蕉
鴨啼(なく)や弓矢を捨てて十余年 向井去来
(注)去来は武士であった。俳句にのめり込んで十余年、という感慨。
萍(うきくさ)に何を食ふやらいけのかも 服部嵐雪
鈴鴨の声ふり渡る月寒し 服部嵐雪
明けがたや城を取り巻く鴨の声 森川許六
水凝(こ)りて鴨鳴く星の林かな 椎本才麿
(注)凝りては、凍りて。
うねうねと船に筋違(すじか)ふ鴨の声 上島鬼貫
遠干潟沖はしら浪鴨の声 上島鬼貫
うち入りて先ず遊ぶなり池の鴨 立花北枝
水底を見て来た顔の小鴨かな 内藤丈草
鴨の毛を捨てるも元の流れかな 炭太祇
佐保川に鴨の毛捨てるゆうべ哉 与謝蕪村
鴨遠く鍬洗ふ水のうねりかな 与謝蕪村
ただ一羽離別れて行くか鴨の声 大島蓼太
鴨なくやはつかに小田の忘れ水 勝見二柳
(注)はつかには、僅かに。
遠浅や鴨のすり飛ぶ夕明り 吉川五明
毛を立てて驚く鴨の眠りかな 黒柳召波
日に鴨の白沙をあゆむ尾ぶりかな 加舎白雄
鴨啼くや浦淋しくもたつ楸(ひさぎ) 加舎白雄
(注)楸はアカメガシワのこととされる。
湖を鴨で埋めたる夜あけかな 井上士朗
鈴鴨やころころ落ちる草の上 栗田樗堂
鴨の中よけてあちこち小鴨かな 栗田樗堂
月の夜をきたなくするな鴨の声 岩間乙二
鈴鴨の虚空に消る日和かな 成田蒼虬
汲む水の波をよけ行く小鴨かな 成田蒼虬
何処からか出て来て遊ぶ小鴨かな 成田蒼虬
朝々にかぞへる池の小鴨哉 成田蒼虬
朝川にひたして赤し鴨の足 成田蒼虬
夕雲のてるや藪根のひとつ鴨 成田蒼虬
我門に来て痩鴨と成りにけり 小林一茶
鴨よかもどつこの水にさう肥えた 小林一茶
古利根や鴨の鳴く夜の酒の味 小林一茶
鴨なくや汐さす堀の行き溜り 桜井梅室
風呂に居て鴨の料理の指図かな 桜井梅室
なく千鳥帆にくるまつて寝る夜かな 井上井月
竹薮の裏は鴨鳴く入江かな 正岡子規
一つ家に鴨の毛むしる夕(べ)かな 正岡子規
内濠に小鴨のたまる日向かな 正岡子規
夜更けたり何にさわたつ鴨の声 正岡子規
鴨啼くや上野は闇に横(た)はる 正岡子規
鴨提(げ)て雪間出で来し丹波人 松瀬青々
石垣に鴨吹きよせる嵐かな 河東碧梧桐
鴨の浮くあたり日ざして霧深し 臼田亜浪
枯蓮を離れて遠し鴨二つ 原抱琴
鴨うてばとみに匂ひぬ水辺草 芝不器男