冬枯れ、枯れる

 冬枯れは、草木が枯れ萎れた状態と思われるが、俳句では野山の草木が枯れ果てた総体的な冬景色を意味している。別の季語で言えば「枯野」に近いと言えるだろう。「名の木枯る」という季語は、名の知られた種類の木が枯れるのを総合して言う。俳句に詠む場合は、「欅枯る」「枯柳」のように使い、「名の木枯る」という語は用いないことに注意。「冬枯れ」に近似の季語なので、この項の下に並べた。

冬がれや世は一色に風の音   松尾芭蕉
冬枯の木の間のぞかん売屋敷   向井去来
かれかれてもの寂びれたる冬の園   杉山杉風
冬枯や平等院の庭の面   上島鬼貫
茶の花の香や冬枯の興聖寺   森川許六
冬枯の歯朶(しだ)にうつるや鳥の息   浪化
冬枯や芥しづまる川の底   田川移竹
冬枯や雀の歩く樋(とい)の中   炭太祇
冬枯やうつつの末の富士筑波   堀麦水
冬がれの里を見おろす峠かな   黒柳召波
冬枯や寺門幽(かす)かに人を呼ぶ   加藤暁台
冬枯れの家に並ぶや桑の畑   栗田樗堂
枯れはてて一段低き野面かな   江森月居
冬がれに問ず語りや須磨の僧   成田蒼虬
冬枯や鹿の見て居る桶の豆   小林一茶
冬枯や神馬の漆はげて立つ   小林一茶
冬枯れて窓は明るき雨夜かな   小林一茶
冬枯れにめらめら消ゆるわら火かな   小林一茶
冬枯や在所の雨が横に降る   小林一茶
冬枯の背戸にかけたる鵜縄かな   小林一茶
(注)鵜縄は、鵜飼用の縄、または魚を網に追い込むための鳥の羽をつけた縄。
冬枯や野川の魚の底に澄む   谷素外
冬枯や沼をたつきの家二軒   穂積永機
冬枯や垣に干菜の風の音   楽和
荻窪や野は枯れ果てて牛の声   内藤鳴雪
冬枯や蛸ぶら下る煮売茶屋   正岡子規
冬枯や巡査に吠ゆる里の犬   正岡子規
はらわたの冬枯(れ)てただ発句かな   正岡子規
冬枯や熊祭る子の蝦夷錦   正岡子規
草山のきれいに枯れてしまひけり   正岡子規
冬枯をぐるりと湖水水寒し   藤野古白
冬枯や泥に汚れし馬が来る   佐藤紅緑
冬枯の道二筋に別れけり   高浜虚子
枯るる庭ものの草紙にあるごとく   高浜虚子
冬枯れて竹の根岸となりにけり   吉野左衛門
冬枯のあちらこちらや飛ぶ烏   原石鼎
茅(かや)枯れてみずがき山は蒼天(そら)に入る   前田普羅
(注)「茅」は茅ケ嶽だという。甲信国境の瑞牆(みずがき)山の前面に茅ケ嶽がある。
冬枯れて那須野は雲の溜まるところ   渡辺水巴
枯れはてしものにある日のやすらかに   渡辺水巴
枯るるもの青むもの日のしづけさに   日野草城

名の木枯る(なのきかる)、蔦(つた)枯る、枯蔦、枯蔓(かれづる)、枯葛(かづら)、銀杏枯る、欅枯る、枯柳、冬柳、枯桑、枯茨、枯山吹

萩枯れて奥の細道どこへやら   広瀬惟然
枯芦や難波入江のさざら波   上島鬼貫
鷲の巣の樟の枯枝に日は入りぬ   野沢凡兆
古絲のままで春待つ柳かな   横井也有
鼠喰ふ鳶のゐにけり枯柳   炭太祇
水際の日に日に遠し枯尾花   加藤暁台
舟慕ふ淀野の犬や枯尾花   高井几董
枯れ枯れて月を柳の洩る夜かな   大島蓼太
枯柳笩の飯にけぶりけり   大島蓼太
鶏を盗みしは誰かれやなぎ   加舎白雄
いちはやく枯れてや折るる蘆のふし   加舎白雄
一もとの榎枯れたり六地蔵   正岡子規
枯柳八卦を描く行灯あり   正岡子規
枯葉鳴るくぬぎ林の月夜かな   正岡子規
質草の屏風かつぐや枯柳   渡辺水巴
がらがらに枯れて実高き芙蓉かな   原石鼎
青天にただよふ蔓の枯れにけり   松本たかし
枯桑や国定村は其(の)中に   嵐峰

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