河豚、鰒、魨、河豚鍋、河豚

河豚、鰒、魨(ふぐ、ふく、ふくと、ふぐと)、河豚鍋、河豚汁、ふくと汁、河豚ちり、てっちり

 フグは硬骨魚網フグ目フグ科の魚の総称。内臓などに猛毒があり、昔から食べるときには「河豚は食いたし命は惜しし」と、思い切りとためらいが同居していた。 古くは「ふく」(布久)と呼ばれ、現在でも関西では「ふく」の呼称が一般的。江戸時代の呼称「ふくと」は俳句に多く用いられている。高級魚として珍重されるのはトラフグ(全長は70センチになる)で、俳句に詠まれるのもトラフグにほぼ絞られるだろう。河豚提灯になるのもトラフグである。

あら何ともなやきのふは過ぎてふくと汁   松尾芭蕉
あそび来ぬ魨釣かねて七里迄   松尾芭蕉
ふぐ汁や鯛もあるのに無分別   松尾芭蕉
雪路ふみ水仙刈りつ夜の鰒   池西言水
河豚あらふ水のにごりや下河原   宝井其角
人妻は大根ばかりを鰒汁   宝井其角
魨ひとつとらへかねたる網引(あびき)哉   宝井其角
鯖にこりず鰹にこりず雪の鰒   宝井其角
手を切りていよいよにくし鰒の面   宝井其角
ふくと程鰒のやうなるものはなし   上島鬼貫
鰒喰うて其の後雪の降りにけり   上島鬼貫
死ぬやうにひとは言也ふぐと汁   炭太祇
人ごころ幾度河豚を洗ひけむ   炭太祇
鰒売に喰ふべき顔とみられけり   炭太祇
河豚喰し人の寝言の念仏かな   炭太祇
鰒汁やあしたの原は雪の旅   溝口素丸
鰒汁の宿赤々と燈しけり   与謝蕪村
河豚の面(つら)世上の人を白眼(にら)む哉   与謝蕪村
鰒汁の我活きてゐる寝覚哉   与謝蕪村
逢はぬ恋思ひ切る夜やふぐと汁   与謝蕪村
袴(はかま)着て鰒喰ふて居る町人よ   与謝蕪村
叱られし鰒も喰ひたし母恋し   大伴大江丸
(訳)若いころ河豚を食べて母に叱られたものだ。鰒を食べたい、母も恋しい。
ふぐ喰うてをとこと思うあしたあり   大伴大江丸
帰らめや鰒喰ぬ家に寄せし身を   黒柳召波
身をままに沈めかねたり河豚の腹   加藤暁台
河豚食ふとさがなく人の申しけり   吉川五明
ふぐと汁ひとり食らふに是非はなし   加舎白雄
ふぐ提げて竹の中道誰が子ぞ   加舎白雄
鰒を煮る汁なむなむとこぼれけり   高井几董
河豚汁妻といふものなくもあれ   夏目成美
水仙の花なき宿や鰒と汁   成田蒼虬
浅ましと鰒や見るらん人の顔   小林一茶
鰒好きと窓むきあふて借家哉   小林一茶
どこを風が吹くかとひとり鰒哉   小林一茶
五十にして鰒の味をしる夜哉   小林一茶
京入も仏頂面のふぐと哉   小林一茶
妹(いも)がりに鰒引きさげて月夜かな   小林一茶
(注)妹がりは、妹許(いもがり)。親しい女性(妻・恋人)が居る所。
夕汐に河豚のみ釣るる入江かな   水湖
衝立にかけし羽織や河豚の宿   蓬生
軒ごとの河豚行灯や雪雫   方舟
虎と呼んで河豚の背中の斑(まだら)なる   内藤鳴雪
もののふの河豚にくはるる悲しさよ   正岡子規
鰒生きて腹の中にてあれるかな   正岡子規
河豚食ふてぐわらぐわら腹の鳴る夜かな   五百木瓢亭
河豚を待つ浮世をすねて眠るかな   坂本四方太
河豚喰ひし人恙(つつが)なく鍋洗ふ   佐藤紅緑
河豚食うて尚生きて居る汝かな   高浜虚子
河豚のこと言ひ出して河豚を食ひにけり   高浜虚子
壇の浦見にもゆかずに鰒を食ふ   高浜虚子
老母ありわれ河豚食ふといふ勿(なか)れ   寒川鼠骨
仏法を謗(そし)つて河豚と生まれけむ   石井露月
河豚の鍋見る見る海となりにけり   安斎桜磈子
男(お)の子われ河豚に賭けたる命かな   日野草城

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