渡り鳥は、季節的に北と南の地を移動する鳥類のこと。日本には秋になると北からやって来るものと、南へ去るものがおり、一般的には双方を渡り鳥という。しかし俳句では雁、鴨、鶫(つぐみ)、鶸(ひわ)など、北から渡ってくる鳥類(冬鳥)を渡り鳥として詠んでいる。
冬鳥は数千という大群でやっていることもあり、遠くから見ると雲のように見える状態を「鳥雲」、その羽音が風のように聞えるのを「鳥風」という。
目にかかる雲やしばしの渡り鳥 松尾芭蕉
(訳)日が陰ったので一瞬、雲かと思ったが、渡り鳥の大群が飛んでいくのであった。
故郷も今は仮寝や渡り鳥 向井去来
今日翌(あす)となりて忙し渡り鳥 向井去来
朝嵐あたまの上を渡り鳥 向井去来
時を今渡るや鳥の羽黒山 広瀬惟然
渡り鳥渡るや池の水鏡 森川許六
毛見衆に付(い)て渡るや小鳥共 森川許六
(注)毛見衆は稲の出来を検査に来る役人。
日は西に雨の梢や渡り鳥 志太野坡
山鼻や渡り着きたる鳥の声 内藤丈草
渡り鳥鳴くは故郷の咄(はなし)かや 内藤丈草
雲の根を押して出(ず)るや渡り鳥 浪化
山降りに濡れてぞ出(ず)る渡り鳥 直江木導
地につづく沖の夜明や渡り鳥 奥西野明
唐鳥の渡る目当や富士の山 向井魯町
(注)魯町は去来の弟。
黄昏や雀も連れて渡り鳥 久米牡年
(注)牡年は去来、魯町の弟。
少しあとに糞して遅し秋の鳥 土田杜若
渡り来る鳥の嵐や海の上 野紅
空遠く声あはせ行く小鳥かな 炭太祇
小鳥来る音うれしさよ板庇(びさし) 与謝蕪村
渡鳥ここを瀬にせん寺林 与謝蕪村
京近き山にかかるや渡り鳥 加藤暁台
雀らも真似して飛ぶや渡り鳥 小林一茶
渡り鳥一芸なきはなかりけり 小林一茶
喧嘩するなあひみたがひに渡り鳥 小林一茶
真白に又まつ黒にわたり鳥 桜井梅室
行き違ふ時の早さや渡り鳥 三森幹雄
竹伐(き)りの村の戦(そよ)ぎや渡り鳥 吾伸
小鳥さへ渡らぬ程の深山かな 千子
どのやうに濡れて渡るぞ秋の鳥 素見
渡り鳥あるべき日なり蕎麦は実に 塚本虚明
鳥渡る山のあはい(間)に暮の海 戸田鼓竹
青い鳥紅い鳥怪しい鳥も渡る 安藤和風
小鳥この頃音もさせずに来て居りぬ 村上鬼城
大風に傷みし木々や渡り鳥 河東碧梧桐
大空に又わき出(で)し小鳥かな 高浜虚子
木曽川の今こそ光れ渡り鳥 高浜虚子
渡り鳥光の果に国のある 野田別天楼
或る日小鳥空を蔽(おお)うて渡りけり 数藤五城
吹きあがる落葉にまじり鳥渡る 前田普羅
諸ろ鳥の渡り了(おお)せし夜となりぬ 原石鼎
杣(そま)が羽織着し日の心鳥渡る 中塚一碧楼
渡鳥仰ぎ仰いでよろめきぬ 松本たかし
大恵那の尾根や端(は)山や鳥渡る 松本たかし