蜩(ひぐらし)、かなかな

 蜩は晩夏から秋にかけ、日暮れや早朝に「カナカナ」と鳴く蝉の一種。油蝉、みんみん蝉など、蝉の多くは夏の季語に含まれるが、蜩は法師蝉(つくつくぼうし)とともに秋の季語になっている。本句集では、蜩の項に法師蝉の項を並べた。

蜩や山田を落つる水の音   槐諷竹
蜩や木に啼(く)虫はまだ暑し   横井也有
蜩のおどろき啼くや朝ぼらけ   与謝蕪村
蜩や女子(おなご)の連れはあとの宿   堀麦水
蜩や鳴きやむ方の石灯籠   宇白
蜩にするどき杉の入日かな   傘下
蜩の啼けば瓢(ひさご)の花落ちぬ   加藤暁台
蜩や明るき方へ鳴きうつり   加藤暁台
日ぐらしや盆も過ぎ行く墓の松   蝶夢
暮の雨蜩鳴かずなりにけり   加舎白雄
とし四十蜩の声耳にたつ   加舎白雄
日ぐらしやみの山見ゆる山の間(あい)   成田蒼虬
日ぐらしや急に明るき湖(うみ)の方   小林一茶
今日も今日もああ蜩に鳴かれけり   小林一茶
寒いぞよ軒の蜩唐辛子   小林一茶
蜩や終(つい)に飛こむ月の松   桜井梅室
蜩や近江の入日伊勢の月   桜井梅室
日ぐらしやきれいに晴れし雨のあと   水野龍孫
蜩や几(つくえ)を圧す椎の影   正岡子規
蜩の声の尻より三日の月   正岡子規
蜩の鳴いて机の日影かな   正岡子規
蜩や夕日の里は見えながら   正岡子規
蜩や柩(ひつぎ)を埋む五六人   正岡子規
蜩や厄日事なく暮れんとす   巌谷小波
面白う聞けば蜩夕日かな   河東碧梧桐
ひぐらしや陽明門のしまるころ   赤星水竹居
温泉(ゆ)の宿や蜩鳴きて飯となる   高浜虚子
蜩や重なり見ゆる木々の幹   高浜虚子
蜩やどの道も町へ下りゐる   臼田亜浪
石切のたつきに老いて蜩や   小沢碧童
(注)たつきはこの場合、生活の手段、生計。
蜩や浪もきこゆる一の谷   高田蝶衣
暁の蜩四方に起りけり   原石鼎
蜩や今日もをはらぬ山仕事   原石鼎
鎌倉も奥やひぐらし人に鳴く   久米正雄
蜩や暮るるを嘆く木々の幹   日野草城
ひぐらしや人びと帰る家もてり   片山桃史

法師蝉、つくつくぼうし

今尽きる秋をつくつくほふしかな   小林一茶
鳴き立ててつくつく法師死ぬる日ぞ   夏目漱石
鳴き移り次第に遠し法師蝉   寒川鼠骨
この旅、果もないたびつくつくぼふし   種田山頭火
また微熱つくつく法師もう黙れ   川端茅舎
法師蝉しみじみ耳のうしろかな   川端茅舎

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