天の川、銀河、銀漢

 「天の川」は漢名の「天河」を日本読みにしたもので、「銀河」「銀漢」も中国からもたらされた言葉だという。北半球の天の川は1年中見える位置にあるが、夏から秋へ移る頃が一番よく見え、はっきりとしているので、初秋の季語となった。

 和歌、連歌の天の川はほとんど七夕と関係づけられていたが、芭蕉のころの俳句から単なる情景として詠まれるようになった。

荒海や佐渡に横たふ天の川   松尾芭蕉
うちたたく駒のかしらや天の川   向井去来
真夜中やふりかはりたる天の川   服部嵐雪
岩鳶(とび)のよろりと浮ぶ天の川   服部嵐雪
更け行くや水田の上の天の川   広瀬惟然
秋もはや蚊張に筋違(か)ふ天の川   森川許六
難波津(なにわづ)や蘆の葉に置く天の川   志太野坡
仰向けに寝て見れや遠し天の川   各務支考
細う行く石間の水や天の川   榎並舎羅
日光に朱塗の橋や天の川   田河移竹
寝よかれと世を冷しけり天の川   溝口素丸
(訳)今夜は涼しい。寝やすいようにと、天の川が冷やしてくれたのだ。
筑波から流れ出(い)でたり天の川   白井鳥酔
天の川うつる木草の雫かな   高桑闌更
江にそうて流るる影や天の川   加藤暁台
仰に寝て銀河に胸を冷さばや   吉川五明
天の川星より上に見ゆるかな   加舎白雄
天の川田守と咄(はな)す真上かな   岩間乙二
暁の簗(やな)に落ちけり天の川   松岡青蘿
むら消ゆる雲の中より天の川   井上士朗
うつくしや障子の穴の天の川   小林一茶
汁鍋も眺められけり天の川   小林一茶
木曽山へ流れ込けり天の川   小林一茶
朝立(ち)や馬のかしらの天の川   内藤鳴雪
天の川故郷の空に傾きぬ   内藤鳴雪
曠原(こうげん)に征馬進めつ天の川   伊藤松宇
(注)曠原は広い野原。征馬は軍馬。
松原へ落込む音や天の河   門瑟
北国の庇(ひさし)は長し天の川   正岡子規
別るるや夢一筋の天の川   夏目漱石
寝しづまる高野の町や天の川   相島虚吼
天の川の下に天智天皇と臣虚子と   高浜虚子
銀漢をうす雲ほのと横ぎれり   西山泊雲
妻も子もはや寝て山の銀河冴ゆ   臼田亜浪
草原や夜々に濃くなる天の川   臼田亜浪
東京の灯も寝頃なる天の川   臼田亜浪
天の川枝川出来て更けにけり   鈴木花簑
ざくざくと鳴るかに近し天の川   渡辺水巴
天の川冷え極まりてけぶりたつ   渡辺水巴
銀漢や帆ながらかかる泊り船   原石鼎
米提げてもどる独りの天の川   竹下しづの女
蕭々と天の川より風来る   日野草城

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