秋の山、秋嶺、秋の峰、山粧ふ

 秋は大気が澄んで視界視程がぐんと広がり、遠くの山の稜線までくっきりと浮かび上がって見えるようになる。一方、山は急ぎ足で木々を色付かせ、遠い山から順々に季節の移ろいを示す。山が紅葉をまとったさまを「山粧ふ(やまよそほふ)」と言う。

秋山や駒もゆるがぬ鞍の上   宝井其角
毬栗の笑ふも淋し秋の山   河野李由
立ち去る事一里眉毛に秋の峯寒し   与謝蕪村
馬の目も澄むや日の入る秋の山   左次
秋の山ところどころに煙立つ   加藤暁台
雨三粒降て人顕(あら)はるる秋の山   加藤暁台
関守が棒の先なり秋の山   岩間乙二
宇治へ行く道ばかりなり秋の山   井上士朗
枯て久しき松こそ見ゆれ秋の山   井上士朗
家二つ戸の口見えて秋の山   鈴木道彦
秋の山一つひとつに夕(ゆうべ)哉   小林一茶
冷え冷えと袖に入る日や秋の山   小林一茶
秋の山活きて居るとて打つ鉦(かね)か   小林一茶
秋の山人顕(あらわ)れて寒げなり   小林一茶
米負うて旅人入るや秋の山   小林見外
人の住む煙も見えて秋の山   原田梅年
人にあひて恐しくなりぬ秋の山   正岡子規
信濃路やどこ迄つづく秋の山   正岡子規
湖をとりまく秋の高嶺哉   正岡子規
鳥飛んで秋の山眼に横たはる   正岡子規
大滝を北へ落すや秋の山   夏目漱石
見つつ往(ゆ)け旅に病むとも秋の富士   夏目漱石
薄墨の夕べに見れば秋の山   松瀬青々
家二三藪一反の秋の山   松瀬青々
墓と見えて十字架立つる秋の山   河東碧梧桐
(注)普通の墓のように見えて十字架になっている。隠れキリシタンの墓。
見下ろせば秋の山々我をめぐる   高浜虚子
秋山に猫現れて下り来る   高浜虚子
雌鳥(めんどり)の一つ離れて秋の山   本田あふひ
牧ここに広げんと思ふ秋の山   大須賀乙字
秋山に騒ぐ生徒や力餅   前田普羅
葛城に重ねてうすし秋の山   山本梅史

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