若葉、青葉、谷若葉、寺若葉、若葉時、若葉晴、若葉風

 一般的に若葉は伸び出した木の葉の初々しさ、青葉は青々とした色の深さを感じさせるのではないだろうか。時期的に若葉が先で、その後、青葉になる、という見方もあるだろう。しかし歳時記の解説では両者の境界はぼんやりしており、「青葉若葉」と併せて用いられることも少なくない。

又是より若葉一見となりにけり  山口素堂
あらたふと青葉若葉の日の光  松尾芭蕉
(訳)青葉若葉越しの陽の光は、ああ、なんて尊いのだ。奥の細道の日光で。
青葉して御目(おんめ)の雫拭はばや  松尾芭蕉
(訳)唐招提寺・鑑真の像を拝して。盲目の和上の涙を若葉で拭って差し上げたい。
若葉吹く風やたばこの刻(み)よし   服部嵐雪
吹き入るる窓の若葉や手習ひ子   広瀬惟然
大空も見えず若葉のおく深し   立花北枝
鈴鹿路は若葉の底の川瀬哉   宗春
浴(ゆあみ)して若葉見に行く夕(べ)かな   鈍可
若葉より人涌(き)出(いず)る東山   岩田涼菟
有明のゆられて残る青葉かな   中川乙由
新しう雨の聞ゆる若葉かな   桜井吏登
青葉若葉慈悲心深き深山かな   馬場存義
晩鐘に雫もちらぬわか葉かな   加賀千代女
子烏のずぶと濡れたる若葉かな   溝口素丸
をちこちに滝の音きく若葉かな   与謝蕪村
(注)おちこちは、遠近(おちこち)。
絶頂の城たのもしき若葉哉   与謝蕪村
不二(ふじ)一つうずみ残して若葉かな   与謝蕪村
(訳)富士山遠望の景。若葉は富士だけを残し、あたり一帯を埋め尽くしている。
浅間山烟(けむり)の中の若葉かな   与謝蕪村
山畑を小雨晴行くわか葉かな   与謝蕪村
夜走りの帆に有明(け)て若葉かな   与謝蕪村
谷路行く人は小さき若葉哉   与謝蕪村
浅河の西し東す若葉哉  与謝蕪村
山に添うて小舟漕行く若葉かな   与謝蕪村
蚊屋を出て奈良を立ちゆく若葉哉   与謝蕪村
窓の燈の梢にのぼる若葉哉   与謝蕪村
若葉して水白く麦黄みたり   与謝蕪村
金の間の人もの言はぬ若葉哉   与謝蕪村
高どのは燈影(ほかげ)にしずむ若葉哉   与謝蕪村
やどり木の目を覚したるわかばかな   与謝蕪村
峰の茶屋に壮士餉(かれい)す若葉哉   与謝蕪村
(注)壮士は元気のある男。餉すは、弁当を食べる。
岸根ゆく帆はおそろしきわかば哉   与謝蕪村
道灌の岡見しづかに若葉哉   与謝蕪村
(注)道潅は太田道潅。岡見は岡に上り、自宅や領地を眺めること。
山寺の隠れて烟(けむ)る若葉かな   三宅嘯山
鳥鳴いてしづ心ある若葉哉   大島蓼太
(注)しず心は、静心(しずごころ)。
音もなく若葉にしほる細雨かな   大島蓼太
(注)しほる(霑る=しおる)は、うるおう、ぬれる。
里の燈をふくみて雨の若葉哉   大島蓼太
雨はれて雫の青き若葉かな   大島蓼太
青葉若葉下は玉ちる岩の水   高桑闌更
あはしまを女の出(ず)る若葉かな   黒柳召波
(注)あはしまは淡島神社。婦人病に効能があるとされる。
水音も若葉も木曽の日々日々に   黒柳召波
こがね錆びて若葉にしのぶ昔かな   三浦樗良
(注)金閣寺にて。
雨雲のかき乱し行く若葉かな   加藤暁台
葛の若葉吹切りつ行く嵐かな   加藤暁台
転(うた)た寝の瞼(まぶた)を通す若葉かな   吉川五明
晩鐘やわかばの中に沈むこゑ   蝶夢
若葉して滝のありたきところかな   加舎白雄
見ありきて先(ず)問ふ椰(やし)の若葉哉   加舎白雄
国ゆたかに見ゆる若葉の関路哉   加舎白雄
(注)関路は関所に通じる路。
嵐して藤あらはるる若葉哉   高井几董
柴の戸を朝々しめる若葉かな   井上士朗
若葉して仏のお顔隠れけり   夏目成美
浅草の甍(いらか)こぶかき若葉哉   夏目成美
(注)こぶかきは「木深き」。木々が茂り奥深い。
ほの明けや魚荷こえ行く山若葉   夏目成美
傘(からかさ)のちいさく見ゆる若葉かな   建部巣兆
懸棹(かけざお)のつるりと落ちし若葉かな   巒寥松
一日の心を得たる若葉かな   成田蒼虬
乗掛のひよつくり出たる若葉かな   小林一茶
(注)乗掛は人と荷物を載せた馬。乗掛馬。
梅の木の心しづかに青葉かな   小林一茶
雪折を健気に隠す若葉かな   桜井梅室
(訳)雪で折れていた枝も若葉が隠してしまった。木は健気に葉を茂らせている。
寝たらぬか若葉曇か朝の内   桜井梅室
暮の雨霽(は)れて若葉の月夜哉   桃水
風折々燈火の見ゆる若葉かな   生仏
白雲の絶へず湧き出る若葉かな   三森幹雄
青葉若葉昼中の鐘鳴り渡る   正岡子規
青葉若葉烟突(えんとつ)多き王子かな   正岡子規
宮か寺か若葉深く灯のともれるは   正岡子規
三千の兵たてこもる若葉哉   正岡子規
若葉して家ありしとも見えぬかな   正岡子規
目を病むや若葉の窓の雨幾日   森鴎外
山越えて城下見おろす若葉哉   正岡子規
榎若葉曇れる天に静まれり   青木月斗
俎(まないた)や青葉で拭ふ烏賊(いか)の墨   松瀬青々
湯つかれを若葉の風に寝たりけり   五百木瓢亭
薄茶のむ菓子の白さよ若葉寺   寒川鼠骨
宵あさき月隠れゐる若葉かな   鈴木花蓑
貫之(つらゆき)の船路を何処と浦若葉   武定巨口
あきらかに雀吹かるる若葉かな   原石鼎
若葉ばれ山の音野にのびてくる   飛鳥田孋無公
書庫暗し若葉の窓のまぶしさに   竹下しづの女
水晶の念珠に映る若葉かな   川端茅舎

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