水鶏(くいな)、水鶏笛、水鶏鳴く

 水鶏は全長30センチほどの水辺に住む鳥。「カタカタ」という戸をたたくような鳴き声に特徴があり、古来、水鶏の鳴き声は「たたく」と表現されてきた。昔から、姿のあまり見えない鳥とされているが、俳句の有力な題材になってきたのは、人家のあるあたりでも鳴き声がよく聞えていたのだろう。現代では水鶏を詠んだ句はあまり見かけない。身近に見たり、鳴き声を聞かなくなったからだろう。

明けながら月見る窓の水鶏哉   宗養(半朽斎)
(注)室町時代の連歌師
この宿は水鶏もしらぬ扉(とぼそ)かな   松尾芭蕉
(訳)泊ったのは辺鄙な場所の宿。水鶏が扉を叩くこともなさそうだ。
夜あるきを母寝ざりける水鶏かな   宝井其角
(注)「自愧」の前書きがある。
曇る日や水鶏ちらりと麦の中   広瀬惟然
くひななく夜や吸い物に茗荷たけ   立花北枝
畝豆の二葉に見ゆる水鶏哉   浪化
人の門たたけば逃るくひな哉   横井也有
水音は水にもどりて水鶏かな   加賀千代女
僧ひとり門に彳(たたず)む水鶏かな   堀麦水
日やけ田に水門たたく水鶏かな   大島蓼太
木母寺をひるから敲(たた)く水鶏かな   大島蓼太
藺田刈りて水鶏に遠き寝覚哉   大島蓼太
日も暮れぬ人もかへりぬ水鶏なく   黒柳召波
月の出に川筋白しくひな鳴く   黒柳召波
くひな啼(く)や幽(かす)かになりし我心   三浦樗良
水鶏啼け夜の市人酒の酔   三浦樗良
聞くうちにすゑまぼろしの水鶏かな   松岡青蘿
水鶏啼く宿とこたへたりおもひもの   加藤暁台
(注)おもひもの(思い者)は恋人、好きな女性。
曙は水門潜る水鶏かな   高桑闌更
溜池や漬木のうへに水鶏啼く   高桑闌更
草しげみくひなの道に鎌入れん   加舎白雄
雨ながら月夜になりぬ鳴く水鶏   夏目成美
明果てて水鶏出て行く藪根哉   夏目成美
宵々に米搗(つ)く寺の水鶏哉   夏目成美
壁の穴ことしも水鶏聞ゆなり   成田蒼虬
草の戸の腰かけ客や啼くくひな   成田蒼虬
草むらに家蔵見えて啼く水鶏   成田蒼虬
遠水鶏小菅の御門しまりけり   小林一茶
よひよひ(宵々)の待つ身につらき水鶏哉   遊女・若絲
夕晴に虹立つ川の水鶏哉   汀風
鳴く水鶏走る水鶏や長堤   太無
水鶏やんで山僧門を叩きけり   正岡子規
水鶏来し夜明けて田水満てるかな   河東碧梧桐
馬道を水鶏のありく夜更かな   泉鏡花
水鶏聞いて今見し夢を淋しがる   佐藤紅緑
一つ家を叩く水鶏の薄暮より   松本たかし
番犬も淋し啼きして水鶏宿   松本たかし
水鶏鳴く旅寝はじまる一夜かな  松本たかし

閉じる