鰹(かつお)、初鰹、松魚(かつお)、鰹釣、鰹船

 鰹は体長50センチ〜1メートルに達する回遊魚。太平洋の鰹は南の海に生息し、春から夏にかけて黒潮に乗って北上し、太平洋沿岸にやってくる。日本人はこれを「初鰹」と呼び、初夏の味として珍重してきた。鰹は黒潮と親潮の接するあたりで、餌をたくさん捕食し、秋になると南へ下っていく。

 鰹の近似の種にスマ、マルソウダ(ソウダガツオ)、ヒラソウダ、ハガツオなどがいる。

目には青葉山時鳥初鰹  山口素堂
(訳)青葉が繁り、山に時鳥が鳴いているが、この時期は何といっても鰹だろう。
鎌倉を生きて出でけん初鰹   松尾芭蕉
(訳)この鰹がとても活きがいい。鎌倉から運び出される時は生きていたに違いない。
鰹売いかなる人を酔すらん   松尾芭蕉
又越む佐夜の中山はつ松魚   松尾芭蕉
(訳)小夜の中山を越えて初鰹を食したことがある。またあの峠を越えたいと思う。
我恋は夜鰹に逢ふ端居かな   池西言水
(注)夜鰹は、相模灘方面から船によって夜、江戸に運ばれたもの。非常に珍重された。
初鰹盛(り)ならべたる牡丹かな   服部嵐雪
(注)「牡丹」の項にも載せている。
下郎らに鰹くはする日や仏   服部嵐雪
大勢の中へ一本かつおかな   服部嵐雪
包丁のうしろ明りや初がつお   服部土芳
楊貴妃の夜は活(いき)たる鰹かな   宝井其角
うたたねの夢に見えたる鰹かな   宝井其角
(注)「懐亡母」の前書き。
世に青きもののさかりや鰹時   宝井其角
年よらぬ顔ならべたや初鰹   炭太祇
朝比奈が曾我を訪ふ日や初鰹   与謝蕪村
(注)朝比奈は小林朝比奈。曾我兄弟に彼らの仇(かたき)・工藤祐経の居所を教えた。
くれなゐは花にかぎらじ初鰹   大島蓼太
月影や鰹の背色腹の筋   杉坂百明
又嬉しけふの寝覚は初鰹   加藤暁台
夜松魚に裾ぬらしたる内井かな   加舎白雄
(訳)貴重な夜鰹が到着し、屋内の井戸端でさばく。裾が濡れるのは承知の上。
いずかたに夜走るらんはつがつを   夏目成美
(訳)初鰹が運ばれていく。この夜中、どこへ走っていくのだろうか。
芝浦や初松魚より夜が明る   小林一茶
わが宿のおくれ鰹も月夜哉   小林一茶
初松魚水をそそがば生やせん   夏目吟江
引提げて座敷へ通る鰹かな   津富
水を出て藍より青し初松魚   米璘
波音の中に千鳥や初鰹   青木月斗
出刃の背を叩く拳(こぶし)や鰹切る   松本たかし

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