かたつむり、かぎゅう、でんでんむし、まいまい

蝸牛(かたつむり、かたつぶり、かぎゅう)、ででむし、でんでんむし、まいまい、まいまいつぶり

 蝸牛は異名が多く、地域によって呼び名も異なる。本来の名は「かたつぶり」だったそうだが、現在では「かたつむり」が最も普通の呼び方になっている。古い歳時記に「蝸牛(かぎゅう)と音読するは俳句には好ましからず」とある。

 蝸牛はナメクジと同じマイマイ目に属するが、人に嫌われるナメクジと対照的に、どちらかと言えば親しまれ、愛される存在だ。巻貝の形をしている殻や頭部から出る二対の目(角という)に愛嬌があるからだろう。

橋に来て踏みみ踏まずみ蝸牛   天野桃隣
(注)踏みみ踏まずみは、踏んだり踏まなかったり。
かたつぶり角ふりわけよ須磨明石   松尾芭蕉
(訳)高所から須磨と明石を見下ろして。蝸牛よ、お前の二つの角を振り分けてくれ。
ころころと笹こけ落ちし蝸牛   杉山杉風
白露や角に目をもつかたつぶり   服部嵐雪
かたつぶり酒の肴に這わせけり   宝井其角
(注)蝸牛を眺めながら、酒を飲んだのだ。
笹の葉に何と寝たるぞ蝸牛   各務支考
四五寸に夜道明けたり蝸牛   横井也有
(訳)蝸牛の“夜道”を詠んだものか。道中、笠の上の蝸牛が動いたのは四五寸、という解釈も。
竹の子に脱ぎ捨てられて蝸牛   横井也有
(訳)竹の子の上を這っていた蝸牛。竹の子の落とした皮といっしょに落ちていった。
親と見え子と見ゆるありかたつぶり   炭太祇
夜を寝(い)ぬと見ゆる歩みやかたつぶり   炭太祇
今朝見れば夜の歩みやかたつむり   炭太祇
(訳)昨夜いた蝸牛を今朝また見つけた。蝸牛はあの距離を一晩かけて歩いたのだな。
怠らぬあゆみおそろしかたつむり   炭太祇
引き入れて夢見顔なりかたつぶり   炭太祇
盗人の抓(つま)む夜もあり蝸牛   炭太祇
(注)「笋(たけのこ)に蝸牛の這う絵に」との前書きがある。
折りあしと角をさめけむ蝸牛   炭太祇
角出して這はで止みけり蝸牛   炭太祇
(訳)蝸牛が角(目)を出した。歩き出すのかと思ったら、角を引っ込めてしまった。
かたつぶり何思ふ角のながみじか   与謝蕪村
(訳)蝸牛の目の一方が長く伸び、一方が短い。何を考えているのだろう。
点滴に打たれて籠る蝸牛   与謝蕪村
(注)点滴は雨だれ。
蓑虫はちちとも鳴くを蝸牛   与謝蕪村
(訳)蓑虫は「ちち」と鳴くというが(実際は鳴かない)、蝸牛は鳴けないのだな。
摺(すり)鉢をつかめば夜べの蝸牛   与謝蕪村
壁塗(り)の来ぬいとまありかたつぶり   与謝蕪村
(訳)荒壁の蝸牛よ、壁塗り職人が来たら塗り込められるぞ。まだ少し時間はあるが。
蝸牛のかくれ顔なる葉うらかな   与謝蕪村
(注)かくれ顔なるは、隠れている風に見える。
でで虫の行がたしらずなりにけり   与謝蕪村
こもり居て雨うたがふや蝸牛   与謝蕪村
(訳)蝸牛が殻の中に籠っている。雨は降っているかな、と考えているのだろう。
蝸牛の住はてし宿やうつせ貝   与謝蕪村
(注)うつせ貝は虚貝。この場合は空になった殻。
のぼりつめて落ちたり竹の蝸牛   高桑闌更
蝸牛や竹ちる中に落つる音   蝶夢
かたつぶりけさとも同じあり所   黒柳召波
三日月の木ずゑに近し蝸牛   高井几董
かたつぶり落ちけり水に浮きもする   加舎白雄
山歯朶(しだ)や寸にあまれる蝸牛   加舎白雄
足元へいつ来たりしよ蝸牛   小林一茶
かたつぶりそろそろ登れ富士の山   小林一茶
朝やけがよろこばしいか蝸牛   小林一茶
夕月や大肌ぬいでかたつむり   小林一茶
草の葉に移れば重しかたつむり   嵐斎
蝸牛(ででむし)の頭もたげしにも似たり   正岡子規
雨の森恐ろし蝸牛早く動く   高浜虚子
朽(くち)臼をめぐりめぐるや蝸牛   西山泊雲
でで虫の腸(はらわた)寒き月夜かな   原石鼎
でで虫に滝なす芭蕉広葉かな   川端茅舎

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